クリエイター、玉寿司の課題の核心に迫る

小杉:僕はアートディレクターなのでロゴの仕事も多いのですが、ロゴ単体が重要なのではなくて、ブランド全体のこだわりが詰め込めるかどうかがポイントなんですね。ロゴだけでなく、店で使うフォントも、メニューで使う紙質からも、すべてを通じて感じられるものがあると思うのですが、強いブランドはやっぱり割り切りがあるんですね。

中野里 陽平
(なかのり・ようへい)

1972年東京都生まれ。米国留学を経て、1999年に株式会社玉寿司に入社。創業90年を超える老舗寿司店「築地玉寿司」を受け継ぎ、2005年に33歳で4代目社長に就任。現在、全国に27店舗を展開している。

 例えば、ティファニーだったらコピー用紙のようなものはお客様には渡さないとか。新聞広告は思い通りの色が出ないから絶対にやらない、と決めているブランドもあります。

 一方で、今の玉寿司さんは良くも悪くもバランスが取れているけど、思いっきり振り切った所がないなぁと感じる所はありますね。

中野里:スターバックスが1千店舗できた理由は、明らかに店舗空間へのお金のかけ方が他のコーヒーチェンとは圧倒的に違う、という所にあると思うんですよね。似たようなコーヒーチェーンは増えてきて入るんだけど、やっぱり壁1つ、ソファー1つとっても、安っぽいし二番煎じだなと感じるわけです。

 明らかに、スタバで過ごす自分の時間が居心地が良いという、自分ブランディングが出来ているんだろうと思うんですね。昔ながらの親父に囲まれた喫茶店よりも、仕事ができそうな人に囲まれたスタバにいる自分の方が、傍から見ても良いですよね。

小杉:カップを持っているだけで満足そうな人もいますよね。

中野里:そうそう。コーヒーの味も大事だけど、もうライフスタイルに入ってますよね。それを商品化した彼らは相当すごいと思っているんです。

 寿司屋でありながら、寿司以外の潜在的なニーズがあるかどうか。例えば、寿司屋に行くと「ちょっと癒されるよね。なんかほっとするし、心が休まるよね」という要素が「無いです」とは言い切れないような気がするんです。

 コーヒーも相当前から愛されてきましたが、寿司もこれだけ世界中の人から愛されているわけだから、先進諸国の人たち全部に「いいね」と言われる寿司屋のあり方というのはあるのかなぁ。

 もしも自分達が何業であるかが見つかって、空間や従業員のあり方や、お客様のライフスタイルでどういう時に使われるのか、その答えを見つけた時には、僕は、もう、本当にドーンと億単位のお金を借金して、全部作り直して行きたい。

 今、店舗展開をあえてそれほどやっていないのは、実はそこをこの何年か模索しているのに、いっこうに答えが見えていないということかもしれないなー。(沈黙4秒)

 今日ご提案頂いた話を聞いていて、逆に自分の中には、何か突き抜けるものを探しているんだなということが明らかになりましたね。

小杉:時間になりましたが、今日はありがとうございました。普段はクリエイターから直接提案を受ける機会は少ないと思うのですが、今日はいかがでしたか?

中野里:面白かったですね。「攻めと守り」という話を聞いた瞬間に、僕の長年持っていた潜在的な悩み、経営課題にパーンと触れたわけです。たしかにバランスは取れているけど、先進諸国のライフスタイルに有意義な変化を与えるぐらいの提案は自分達には無いなぁと、潜在的に思っていたんです。思っていたんだけど、今までは目の前のことばかり考えていた部分があったんですが、小杉さんの提案で引き出された感じですね。だから、社内の幹部ともこんな話まではしていないですね。