経営者、これまでの課題が一気に表出する

中野里:なるほどねー。(沈黙5秒)僕の今の経営は、そうだな、5段階評価の成績でいうと、オール4みたいな、そんなイメージを自分では持っているんです。

 けっして悪くないし、業績も含めて10年間コツコツと積み上げてきました。 さらに、頑固な寿司屋ではなく、お客様に海の幸を楽しむための柔軟なサービスも作ってきたんです。例えば、「海の幸のチーズグラタン」。プライドの高い職人からしたら理解できないわけですが、お客様は「そんなものもあるんだ」といって楽しんでもらえています。私達が発明した手巻き寿司もそうなんだけど、寿司を美味しくしようというのではなく、「海の幸を美味しく味わってもらおう」という経営理念にそってやっているわけですね。

小杉:はい。

中野里:他の寿司屋では、穴子の一本握りのようなデカネタで、尖った部分を作ろうとしているけど、僕たちがなぜデカネタをやらないかというと、やっぱり国産のちゃんとしたものをちゃんと出したいという想いがあるからなんです。

 デカネタのほうがマスコミも取り上げたりするけど、僕たちは愚直に掃除を大事にしよう、朝礼を大事にしよう、ネタとシャリのバランスのとれた美味しいお寿司を出そう、と考えてやってきたわけです。

 決して目立たないけど、全店順調にお客様に来て頂いている。うーん、なんていうか、大学時代に友達で、そこそこ真面目で、清潔感もあって、すごいカッコいいわけではないけどスポーツもやっていて、普通の彼女がいてね、遊び人ってほど遊んではいないけど、ちょこちょこと流行を取り入れている。そんなキャラクターだなって僕の中では思っているんです。

 それに対して満足もしているんだけど、どこかで尖っている部分が欲しいなっていう思いがあるんです。要するに、個性というか、独自の価値が欲しいわけですね。

小杉:成績で言えば「5」の部分ですか。

中野里:そう、5が欲しい。もっといえば、6なのか、7なのか。今は、味・空間・接客・価格のバランスがきれいな五角形のマトリックスになっているんだけど、なんか目立っていない。5メートル先から見たら目立たなくって埋没しちゃうんじゃないかな、みたいに感じるときもあるんですね。本当はバランスを取るのも大変なんだけど。

小杉:そうですね。そうですね。

中野里:「わっ、これは今までにないね!」「これは珍しいね!」みたいなことを、僕自身がもっと追求しなくちゃ行けないのかなと感じる所があるんですよね。父である3代目の方がその辺りが上手いんです。先代が優れているなと思うのが、「手巻きをバーンとやっちゃおうよ」とか、「全部40円均一にして、天井も鏡ばりにしよう」とか、「なんじゃこりゃ?」という寿司屋をやっちゃうんですね。

 そんな先代から引き継いで10年、もしかしたら僕は無駄なものを削ぎ落として、地盤固めをしてきたのかもしれないな、と今感じましたね。で、10年で強固な地盤が出来たんだけど、昔みたいな「なんじゃこりゃ?」というモノを作る力は、弱いなぁ。

 で、何が言いたいかというと、小杉さんの提案を見た時、僕の性格は守りの方。攻めの方は、未知なる領域というか、僕一人で陣頭指揮をとって出来るレベルではないなっていうことを感じました。

※次回は4月24日(金)公開予定。

 

【お知らせ】
小杉幸一 × 築地玉寿司 展
「もじにぎり」
〜 新鮮なもじ、にぎりました 〜

この対談がきっかけとなって、小杉幸一氏によるデザイン展を、
築地玉寿司 晴海通り店で開催することになりました。
たった一日限りの展覧会です。
ぜひお越しください。
<日時> 2015年4月26日(日) 13:00〜21:30
<場所> 築地玉寿司 晴海通り店 地下一階
<料金> 入場無料
<詳細はこちら

 

【連載バックナンバー】
第1回「クリエイターは経営者の課題を引き出せるか」
第2回「対談1:クリエイターは経営者の悩みを引き出せるか」
第3回「対談2:クリエイターが経営者の課題をつきとめる」