まずはプロトタイプをつくってみる

ミラー:仕事というのは、ひとりでは遂行できません。かならず何らかの組織のなかで成果を出すことが求められます。私がイノベーションアーキテクト、イノベーションが起こるような環境を設計する人間だとすると、イノベーションを起こす人間は私ではない。まわりにいるチームメンバーです。しかし、イノベーションが達成されるかどうかは、イノベーションアーキテクト次第です。彼らを守るためには、設計者が政治を理解し、イノベーターを守らなければいけないのです。

――一方で、イノベーションは多様な考えを取り入れるなかから生まれる意見もあります。多くの人の意見が集まる仕組みはクリエイティブなプロセスに重要だと思いますが、それでも「ひそかに進める」ほうがよいのでしょうか?

ミラー:ここで言っている「ひそかに進める」というのは、「秘密にする」ということとは違います。レーダーの監視の目が届かないところでやる、というイメージですね。外部に目を向け、意見を聞くのはいいことです。しかし社内の人に対しては、アイデアを公開していい人かどうかを見極め、重要人物への連絡を欠かしてはいけません。組織にはイノベーションにおける「ゲートキーパー」がいます。組織内にはいくつものアイデアが生まれてくるものです。玉石混交のなかから良いものを選び、支援するのがゲートキーパーの仕事です。ゲートキーパーは、あるアイデアが出てきた時に、それがみんなの関心を買ったり、評価したりするようになるまでは、マイナスの働きをすることがあります。

――アイデアをつぶそうとする、と。

ミラー:そうです。それがたとえ良いアイデアであったとしても、判断がつかないうちは対抗勢力となり得る。自分のチームにイノベーターがいて、何かのアイデアが出てきたらそれは歓迎すべきことです。しかし、それをいきなり社内に広く知らしめるのはちょっと待ったほうがいい。今ですと、まずプロトタイプをつくってみるのもいいかもしれません。ちょうど今朝、秋葉原にあるDMM.make.AKIBAというところを見学したのですが……。

――3Dプリンタなどのハードウェア開発に使える機材がそろっているスタジオに、ベンチャー企業のシェアオフィスが併設されているところですね。

ミラー:大企業の社員であれば、いきなり上司に意見を聞くのではなく、こういったところで夜や週末を使ってプロトタイプをつくってみるのはどうでしょう。アイデアだけの状態で意見を聞くのと、プロトタイプを見せながら意見を聞くのとでは、おそらく対応がぜんぜん違うと思います。イノベーションというのは、頭のなかで起こるプロセスだけでなく、実行するところまでを含む。かたちにしてこそ、意味があるのです。

――誰にも認められない状態から、まず自ら行動するという熱意が必要なんですね。

ミラー:そうです。まわりから、あの人はイノベーションを起こそうという熱意がある人だ、と見られるようになったら、もう戦いに勝ったも同然です。