ブリント 下のグラフを見て下さい。この2つは、どちらも15歳から24歳の就業者の正規雇用と非正規雇用の比率を示したものです。唯一の違いは、左は「就学中」の労働者を含めたデータ、右は「就学中」の労働者を除いたデータを元にしたグラフであることです。
 


 これを見ると、就学中の労働者を含めた左側のグラフでは、非正規雇用の就業者の比率が大幅に増加しているように読み取れます。その一方、就学中の労働者を除いた右側では、非正規雇用の比率は確かに増加していますが、全体から見るとわずかです。

 このグラフは、2002~2012年までのデータを元にしていますが、それ以前には「就学中」と「未就学」グループを区別した非正社員データはありませんでした。大学進学率が著しく上昇した2002年以前のデータもあれば、この傾向はより顕著に示されたのではないかと考えています。 

2つの問いから
非正規雇用と教育の関係を考える

琴坂将広(ことさか・まさひろ)
立命館大学経営学部 国際経営学科 准教授
慶應義塾大学環境情報学部卒業。在学時には、小売・ITの領域において3社を起業、4年間にわたり経営に携わる。 大学卒業後、2004年から、マッキンゼー・アンド・カンパニーの東京およびフランクフルト支社に在籍。北欧、西欧、中東、アジアの9ヵ国において新規事業、経営戦略策定のプロジェクトに関わる。ハイテク、消費財、食品、エネルギー、物流、官公庁など多様な事業領域における国際経営の知見を広め、世界60ヵ国・200都市以上を訪れた。 2008年に同社退職後、オックスフォード大学大学院経営学研究科に進学し、2009年に優等修士号(経営研究)を取得。2013年に博士号(経営学)を取得し、同年に現職。専門は国際化戦略。 著書に『領域を超える経営学』(ダイヤモンド社)などがある。

琴坂 なるほど、大学進学率の伸びによるアルバイトの増加の影響を除けば、若年労働者の非正規雇用の比率は必ずしも大幅には増加していないのではないか、という意見ですね。しかし、もしそれが事実だとしても、依然として高等教育と非正規雇用の関係については2つの重要な疑問が残ります。1つは、学生は在学中に働きたいと思って働いているのか、それとも働かざるを得ないから働いているのか。もう1つは、より多くの若者が大学に進学するのは、そうでなければ就業先を見つけることが難しいからではないのか。この2つの質問にはどう回答しますか。

ブリント 1つ目の質問に対しては、私は一般的な見解しか出せませんが、通常、親の収入と子どもの学歴には顕著な相関関係があります。進学率の大幅な増加を考えると、親の所得がそれほど多くない家庭で育った人も大学に進学するようになった、と考えられます。それは、学生アルバイトをする必要性の増加を示唆する要素です。その一方で、子どもが一人だけという家庭も増えてきています。これは教育費を分配しなくてはならない兄弟の数が減ったということですから、全体として大きな変化はないと思いますが。

ロッタンティ 2つ目の質問は、日本の企業が新入社員に要求していることにも関係しているでしょう。ただ因果関係とは双方的なものですから、学生側の視点だけでは回答が難しい質問ですね。たしかに雇主側が求める人材要件が上がったことで、高次教育に進む若者が増えていることは十分考えられます。つまり、企業が大学卒という資格を求めるので、大学進学率が上がるという要素はもちろんあると思います。しかし同様に、高次教育を受けた人材が増加したからこそ、企業側の人選基準が上がったとも言えます。これはさらなる研究の価値があるトピックだと感じます。

琴坂 なるほど、この2つの設問にはすぐに明確な答えを出すことはできないですね。実はもう1つ、学生たちからよく聞かされることがあります。彼らは、大学の学部を卒業して学位を持って就職活動に挑んでも、自分たちの望むような正社員の職を獲得するのがどんどん難しくなってきている、と言います。大学生のアルバイトの増加で非正規雇用の比率の増加は説明できるのかもしれませんが、実際のところ若者は大学を卒業しても正社員の職を見つけづらくなっているのではないでしょうか。

ブリント 全体の数字から見てみると、これはリクルートワークス研究所が発表した求人倍率のデータですが、私企業における大学卒の正社員募集数は、1987年の60万8000件から、リーマンショック直後の2010年でも72万5300件と増加しています。2000年を除き、すべての年で常に志願者数を大幅に上回っています。この数字だけを見ると、正社員になるのが昔に比べて難しくなっているようには思えません。

琴坂 とすると、求人倍率の数値は学生の志望状況を反映しているとは言い難いですね。たとえば、大学生は通常、大企業を好んで志望します。一方、大企業は新卒採用を絞り込んでいるのではないでしょうか。

ブリント そういった事実は数値からは読み取れません。従業員1000人以上の大企業の求人数は、1996年から2010年の間に、6万4500件から15万9700件まで増加しています。もちろん大学生の数も増加していますが、求人倍率も近年にかけて改善傾向を示しています。こうした数値といまうかがった学生の主張とはかみ合っていませんね。

 ともあれ、既存産業の再構築が進む時代の流れのなかで、知名度のある伝統的な大企業が雇用を減じている可能性もあります。新卒者の多くが希望就職先として挙げるような、たとえば従業員2万人以上を擁する大企業のみに絞ったデータは我々の手元にはありません。実際のところ、従業員1000人以上の規模の会社は、多くの新卒者にとっては第二志望グループというわけなのですね。こうした企業の中には成長力の高い優良企業も多いだけに、そうであれば残念です。

琴坂 すると、「就職先を見つけることが難しい」という就活生の感覚は、何か別の変化を示唆しているのかもしれませんね。たとえば、就職活動時期がどんどん前倒しになったために、プレッシャーを感じる若者も多かったとか、インターンシップに参加しないと不利になるとか、最初の企業面接を大学3年時に受けることもありましたからね。インターネットで気軽に出願できるようになった反面、有名企業に就職希望が殺到して、逆に書類選考で落とされる学生も増加したのかもしれません。

ロッタンティ 企業がより良い人材を求めているからこそ、人材の争奪戦が激化しています。たしかに、就活は時間がかかり面倒です。しかし学生には、就活市場は「売り手市場」であること、そして、優秀な人材の確保により大きなプレッシャーを感じているのはむしろ企業だと理解してほしいと思います。