ペンシルバニア大学ウォートン・スクール教授のアダム・グラントが示したデータによれば、大方の考えとは異なり、組織内で他者を助ける人のほうが成功しているという。ただしそのためには、他者にいいように利用されるのを防ぐ適切な戦略が必要となる(本誌論文「マネジメントで助け合う組織をつくる」を参照)。他の研究でも、利他的な行動をする人のほうがグループ内での地位が高まることが示されている(英語論文)。

 ハーバード・ビジネススクールのエイミー・カディらの研究でも、「温かさ」を見せる上司のほうが――能力をまだ示していない段階でも――「厳しさ」やスキルを押し出す上司よりも部下をうまくリードできることがわかっている。その理由の1つは信頼だ。従業員は温かい人間をより信頼するのである(本誌論文「温かいリーダーか、強いリーダーか」を参照)。

 ある興味深い研究では、上司がチームのメンバーに公平に接していると、メンバーは個人的にもチームとしても、組織に自主的に貢献する行動(citizenship behavior)が多くなり、生産性も上がることが示されている(英語論文)。ニューヨーク大学スターン・スクール・オブ・ビジネスのジョナサン・ハイトらの研究によると、リーダーが自己犠牲的になると、部下が心を動かされ鼓舞される。その結果、従業員の忠誠心と献身度は高まり、自身の義務ではなくても他者を助けたり親切に接したりするようになる(英語論文)。「恩送り」(paying it forward)に関する研究によれば、人はともに働く誰かに助けてもらうと、他者(助けてくれた当人ではない人も含む)を助ける傾向が高まる(英語記事)。

 こうした組織文化は、ストレスの低減にもつながる。人間の脳は、脅威を――それが激昂したライオンであれ上司であれ――敏感に感じ取るようにできている。一方で、親切な行動に接すると、脳のストレス反応性が有意に減少する。脳画像の分析によって、他者との関係が安心できるものである場合はストレスへの脳反応が弱まることもわかっている(英語論文)。

 身体にも影響がある。職場の人間関係に絆が欠けていると精神的苦痛が増し、健全な交流があれば従業員の健康が増進される(英語論文)。たとえば心拍数と血圧が下がったり、免疫系が強くなったりするのだ(英語論文)。実際、カロリンスカ研究所(ストックホルムにある医科大学)が企業の従業員3000人を対象に行った研究では、リーダーの特性が従業員の心臓病の発生率に関連していることがわかった。よい上司は文字通り、心臓によいのである。

 多くの人事責任者にとっては意外かもしれないが、イギリスで2000人の従業員を対象に行われた調査では、高給よりも職場での幸福がより重視されている(英語記事)。これはギャラップの2013年の職場調査でも示されている傾向だ。従業員が幸福だと職場がより快適になるだけでなく、社員同士の関係も良好になり、顧客サービスも向上する(英語論文)。医療機関を対象とした大規模な調査によれば、親切に満ちた組織文化では従業員の幸福と生産性が高かっただけでなく、患者の健康と満足度も向上した(英語論文)。