あるプロジェクトで、同社はホテルの宿泊客にタオルの再使用を促す方法を探った。環境への配慮と自社のコスト削減を図るためだ。そこでこんな実験を考案した。環境に優しい行動を取るという約束を宿泊客から取り付け(チェックイン時に宣誓カードにサインしてもらう)、その証しとしてバッジを渡す。すると客は実際に、環境に優しい行動を取ってくれるだろうか(英語論文)。実験の結果、無作為に選ばれてプログラムに参加した宿泊客は、参加しなかった宿泊客(こちらも無作為に設定)に比べ、タオルを再使用する確率が25%以上も高くなることが判明した。

 多くの企業にとって、現場に実験の環境を立ち上げるのは難しいかもしれない。だが膨大な資源を投入しなくても、実験による検証は可能だ。以下の3点さえ押さえれば、ほとんど追加費用をかけずに綿密な実験ができる。

●成果目標を明確にする
 成果は、具体的かつ測定可能としなければならない。「顧客サービスにおけるコールセンターの効率化」といった漠然としたものではなく、「受けた電話を3分以内に、しかるべき技術者に転送できたパーセンテージ」など具体的な指標に落とし込もう。

●具体的に何を変えるかを明確にする
 変更はシンプルなほうが望ましい。多くの変更を要する複雑な改革だと、どの要素によって変化が起きたのか特定しづらくなる。

●組織の一部で変更を実施し(処理群)、他では実施しない(対照群)
 改革の対象部門を決めたら、2つのグループに分ける。グループの割り振りは、コイン投げのような無作為な方法が理想的だ。検証を行う直前の2つのグループをほぼ同質にできるため、両グループの結果の差を変更に関連づけられるからだ。設備、倫理、コスト、サンプルサイズなどの都合で単純な無作為化が不可能な場合は、より複雑な分析的手法を用いてもよい。

 何が有効で何がうまくいかないかを、人の直感では正しく判断できないことが多い。だからこそ、業務施策の検証には上に挙げた方法が必要なのだ。生産性の問題を考えてみよう。私たちは普通、締め切りの順守やタスクの完遂が危うくなった時、単に働く時間を増やせばいいと考える。ところが実際には、働く時間を少し減らすことで人はいっそう生産的になるのだ。

 筆者の1人(ジーノ)はこのテーマについて、インドのバンガロールにあるテクニカル・サポートのコールセンターでフィールド実験を行った(共同研究者はHEC経営大学院のジアーダ・ディステファノ、ノースカロライナ大学キーナン・フラグラー・ビジネス・スクールのブラッド・スターツ、ハーバード・ビジネススクールのゲイリー・ピサノ)。特定の顧客アカウントを担当するための研修を受ける従業員たちを、研修開始から数週間にわたり調査した(英語論文)。

 まず、従業員を無作為に3つのグループに分けた。基本的にどのグループにも同じ内容の技術研修を受けてもらうが、いくつか違う行動を組み込んだ。研修の6日目から16日目までの毎日、1つ目のグループは、終了時間前の15分間を使って、その日に学んだことを(メモを取りながら)振り返る。2つ目のグループは、1つ目のグループと同じことをしたうえで、さらに5分を使って各自がメモした内容を研修仲間に説明する。そして3つ目の対照群は、研修を終了時間いっぱいまで受け、その日に学んだことを書き留めたり仲間と意見交換したりしない。

 1カ月にわたる研修の締めくくりにテストを行ったところ、1つ目のグループは22.8%、2つ目のグループは25%、対照群よりも良い成績を収めた。対照群は他の2つのグループより毎日15分長く研修を受けていたのだが……。我々の研究では、研修に限らず、日常業務のさまざまな側面――データ入力の生産性、チームワーク、サービスの質など――においても、こうした「振り返り」が良い効果をもたらすことが明らかになっている。

 現在、皆さんの組織が抱える最も差し迫った問題を考えてみよう。フレックスタイムや自宅勤務の制度を導入したら、従業員の生産性は上がるのか。サービスの流れを透明化すれば、顧客満足度は高まるのか。従業員により大きな意思決定の権限を持たせれば、人材をつなぎ止められるのか。これらの問いに対し、皆さんは直感的な答えを持っているかもしれない。しかし改革を実施する前に、一度テストしてみる価値はある。


HBR.ORG原文:Experiment with Organizational Change Before Going All In October 13, 2014

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ジョン・ビシアーズ(John Beshears)
行動経済学者。ハーバード・ビジネススクール助教授。経営管理論を担当。

フランチェスカ・ジーノ(Francesca Gino)
ハーバード・ビジネススクール教授。経営管理論を担当。著書に『失敗は「そこ」からはじまる』(ダイヤモンド社)がある。