②市場資産の負債化

 市場資産の負債化は、リーダー企業の製品・サービスを購入してきたユーザー側に蓄積され、組み替えの難しい資産(製品、ソフトウェア、企業イメージ)が、競争上価値をもたなくなるような製品・サービスやマネジメント・システムを上市することによって、リーダーが同質化できない戦略である。

 この戦略で業績を伸ばしたのが宝島社である。同社は1971年に設立され、当初は地方自治体向けのコンサルティング会社であった。その後、月刊『宝島』の版権を買い取り出版業界に参入し、『別冊宝島』でムック市場を開拓した。そして最近では、『Sweet』『GLOW』などの女性誌で発行部数1位となった。宝島社の女性誌の成功要因は、豪華な付録にあると見られがちであるが、実は出版業界の数々の“常識”をくつがえした事が、競争戦略上重要である。

 第1に、宝島社が他の出版社と違ったのは、「シェアを増やすためには、固定客である愛読者ではなく、読んでいない人に買ってもらう事」を明確にしたことであった。従来出版社は、現在の読者、特に愛読者を最重要顧客と見ており、愛読者の声に一喜一憂していた。一方宝島社は、「一番売れている雑誌にしか広告が集まらなくなる」という危機感から、「一番誌戦略」を打ち出し、低迷していた各雑誌を、各ジャンルで一番にすることを目標とした。しかし一番誌にするためには、100万部売る必要があり、同じ読者が2冊買う事はありえないため、読んでいない人に買ってもらうしかなかった。女性誌の付録も、固定客である愛読者に評価されるより、新しい読者を獲得するために商品が選ばれた。同じようなカバンが年に複数回登場するのも、それは新しい読者のためであった。大手出版社では常識であった「愛読者を一番大切にする」という考え方を、宝島社はとらなかったのである。

 第2に宝島社では、営業部員自らが書店に出向き、書店の店員と一緒に売り場作りをしてきた。そうした経験から、雑誌は棚に並べられると上部しか顧客には見えない事を発見し、雑誌のタイトルの上に、特集テーマを書き込むようにした。出版業界では、雑誌のロゴが隠れることはタブーであったが、宝島社は新しい読者を獲得するために断行した。

③論理の自縛化

 論理の自縛化は、これまでリーダー企業がユーザーに対して発信していた論理と矛盾するような戦略を打ち出すことによって、安易に追随するとイメージダウンを引き起こすのではないかと、リーダー企業内に不協和を引き起こす戦略である。