バーバリーと三陽商会に学ぶダイナミック・ケイパビリティ戦略

 バーバリーは英国で生まれた老舗高級ブランドである。自社で生産した高級品を世界各地の直営店を通して販売し多くのファンを獲得してきた。日本では、三陽商会が1965年に輸入販売を開始し、1970年にライセンス契約を結び、日本人の体形や好みに合った商品の製造、販売を手がけてきた。1990年代以降は、価格を抑えた若者向けの普及版ブランドとして「ブルーレーベル」や「ブラックレーベル」を立ち上げ、急速に拡大してきた。

 ところがバーバリーは三陽商会とのライセンス契約期間を短縮し、2015年6月末の契約解消で合意した。契約更新の可能性も残されていたが、バーバリーは英国本社が企画するより高級商品に統一し、ブランド価値の向上をめざして、日本でも直営店を増やすという。

 バーバリーはなぜ、グローバルな垂直的統合行動を選択したのだろうか。

 この垂直的統合行動は、ウィリアムソン教授の取引コスト理論が説明するように、三陽商会との間に発生する高い取引コストを節約するためだろうか。それとも、三陽商会との取引関係に何らかの特殊な資産が形成されており、それをめぐる取引コストがあまりにも高いので、委託販売方式を止めて直営店方式へ切り替えたのだろうか。あるいは、三陽商会との取引関係はあまりに不確実性が高く、それゆえ取引コストが高くつくと判断したのだろうか。

 いすれも異なると考えられる。その理由を述べてみよう。

 両者の間に取引コストが急増し、それを節約するためにバーバリーが契約を解消したとは思えない。したがって、このケースはティース教授が言う取引コスト理論では説明できないケースなのである。

 バーバリーに三陽商会のような日本市場に関する即戦力となる販売ケイパビリティはない。したがって、既存のケイパビリティに基づいて日本での垂直的統合戦略を展開しようとしているとは考えにくい。となると、今回の契約解消は、ダイナミック・ケイパビリティに基づく戦略再構築によるものと考えたほうが自然である。

 バーバリーにとって、高額商品を購入できる層が増加している日本市場には大きな魅力がある。この市場に既存の資源やケイパビリティを再構成、再配置、再構築することで、直営店を展開できると考え、このようなダイナミック・ケイパビリティ戦略を採用したようだ。というのも、すでに、スペインにおけるライセンス契約販売を止めて直営店方式に切り替え(2010年)、成功を収めているからである。

 バーバリーの決断は三陽商会にとって痛手である。契約解消によってバーバリー・ブランドを喪失し確実に減収となる。2016年12月期には、営業利益がマイナス20億円の赤字に転落すると予想されている。

 三陽商会にとって、これまでバーバリー・ブランドが競争優位の源泉であり、固有の資源であった。ところが、それが消滅する。デジタル・カメラの登場で、写真フイルム・ビジネスの消滅に直面した富士フイルムと同じ状況にある。

 このような危機的状況で、今後、三陽商会もまたダイナミック・ケイパビリティに基づく戦略を展開できるかどうかが問われている。既存の資源、資産、知識、技術を再構成、再構築、再配置し、いかにしてこの危機的状況に対応できるのか。

 全国350以上あるバーバリーの店舗とその販売員、そして青森や福島にある縫製工場などを再利用、再構成、再配置して、「マッキントッシュ・ロンドン」や「ポール・スチワート」に変えるようだ。三陽商会の経営者がダイナミック・ケイパビリティを発揮すべき最高の場面が来ているといえるだろう。

参考)
『組織の不条理』菊澤研宗著(ダイヤモンド社、2000年)
『ダイナミック・ケイパビリティ戦略――イノベーションを創発し、成長を加速させる力』デイビット J.ティース著、谷口和弘、蜂巣 旭、川西章弘、ステラ S.チェン訳(ダイヤモンド社、2013年)
Harold Demsetz,Ownership, Control, and the Firm, Basil Blackwell,1988.
Oliver E.Williamson,The Mechanisms of Governance,Oxford University Press,1996.