アップルのダイナミック・ケイパビリティ戦略

 エレクトリック製品は家電量販店などでの販売が主流化するなか、なぜアップルは独自の販売ルートを確立し、自営店舗を設けてまで垂直的統合を進めたのだろうか。ティース教授のダイナミック・ケイパビリティ論でこれを説明してみよう。

 このアップルの垂直的統合の動きは、取引コスト理論に基づくものではない。ティース教授によると、アップルのように革新的な新製品を次々と開発、製造する企業にとって、製品の特長を、説得力をもって説明できる販売ケイパビリティを持つ外部の協力企業を見つけるのは非常に難しかったからだという。

 もちろん、アップルはそのような販売ケイパビリティを持ち合わせていなかった。そのためアップルが採りうる販売策は、ダイナミック・ケイパビリティを用いた次の3つに絞られた。

  • 既存の資源を再配置、再利用、再構成して、次々に出現する新製品を顧客にわかりやすく説明し、販売するケイパビリティを形成しつつ直営店を展開していく。
  • そのようなケイパビリティを持つ流通企業が外部に育つのを待つ。
  • そのようなケイパビリティを持つ流通企業の創造を主導する。


 3つの選択肢のなかでアップルにとって、より効率的だったのが直営店の展開だった。そこでは、取引コスト理論ではなく、ダイナミック・ケイパビリティ論によって企業の境界が決定されたのだ。直営店方式の展開には時間がかかったが、こうしてアップルは結果的に成功を収めたわけである。
 

参考)
『戦略学――立体的戦略の原理』菊澤研宗著(ダイヤモンド社、2008年)
『組織の経済学入門――新制度派経済学アプローチ』菊澤研宗著(有斐閣、2006年)
『ダイナミック・ケイパビリティ戦略――イノベーションを創発し、成長を加速させる力』デイビット J.ティース著、谷口和弘、蜂巣 旭、川西章弘、ステラ S.チェン訳(ダイヤモンド社、2013年)