事例:「ルールが見えない緑」「現場が見えない青」

 さて、筆者はこれまで4ボックス・モデルをセミナー等で紹介していて、いくつか興味深い反応に接している。その中から、緑と青の大切な特徴に光を当てたものを一つずつ取り上げよう。

緑の組織:「空気で行動を変える」の限界

 一つは日本企業A社。同社は2005年あたりから本社主導で人事・組織面のグローバル化を進めているが、多くの事業領域を持つ大企業であり、まだら模様の分類でいえば、本社も海外も緑と青が混ざったまだら模様である(第2回のタイプ5に相当する)。4ボックス・モデルを紹介した際、A社のグローバル人事の責任者の方から、同社の日本本社・日本人のことを想定したこんな話をうかがった。

「当社で戦略を決めているのは現場のミドルだ。現場のミドルが隣の現場のミドルと相談しながら戦略を描いて、それを上(トップマネジメント)に上げていって、会社としての意思決定がなされる。そこから下に下ろす。こういうミドル・アップ・ダウンのプロセスから出てくるものは、所詮、ミドルの目線のものとなり、いわゆるゲーム・チェンジ的な変革はでてこない」

 この例は、緑の場合、ルールが実質的な効力を持たないこともあり、「ルールを変えることで人々の行動を変える」という手が使えなくなるという課題があることを示す。すなわち<右下>のパワー不足で、<右上>の一本足打法になってしまう。加えて、<右下>の手を実践であまり使わないから、<右下>の戦略策定機能(ルールの発見や策定機能)も弱くなる。<右下>が弱ければますます<右下>は使われなくなるという縮小均衡に陥る。

 <右下>を起点とする変革ができない緑の企業で変革を行おうとすると、<右上>のボックスで、人々の行動が長い時間をかけてゆるやかに変わるか、とんでもない危機に接して人々の空気が変わることでしか変革が起きない。リーダーが、危機や機会を先取りして、意図的・戦略的にルールを変えることをてこにして、組織変革を起こすという手が使えない。それは、遺伝子(ルール)変更による変異という手が使えなくなった生物のようなもので、化合物の組成が偶然変わるのを待つように、人の組成である組織が偶然変わるのを待つしかなくなってしまう。

青の組織:「机上の空論」のリスク

 もう一つは日本企業B社。同社は数年前に米系企業YからS事業をアジア地域に限定して買収し、緑の組織に青が急に流れ込んできている。そこで見えてきた青の課題を見てみよう。

 S事業のヘッドクオーターは上海にあり、そのトップは米国著名大学のMBA保持者の中国系米国人(American Born Chinese)のボブ(仮名)。日本本社でA事業を統括するのは山田事業本部長(仮名)。買収から半年が過ぎたころ、ボブの配下にある韓国のA事業の業績が目標値に照らして大きく下回っていた。山田本部長がボブに状況を聞くと、ボブは少しも悪びれることなく、得意のバランススコアカードを持ち出して、業績目標未達の原因分析と、目標達成にむけたアクションプランを立て板に水で説明し始めた。

 山田本部長は、こういう状況になった場合に日本人の部下だったら申し訳なさそうに言い訳するだけなので、さすがにボブは違うなと思いつつも、「ボブ、お前は韓国に行って現場の状況を確認したか」と質問した。ボブはけげんな表情を浮かべ、「韓国のA事業はキムに任せてあり、彼とはバランススコアカードを使って、目標と達成手段についても合意している。途中のマイルストーンをクリアできないときには……」と、また立て板に水が始まったので、山田本部長がそれをさえぎり、「ボブ、韓国に行ってみたのか」と繰り返す。ボブは新しいことを学ぶ点では意欲旺盛な男で、早速翌週、山田本部長と韓国の現場に行って、関係者を交えて議論しながら作戦を立てることの重要性を学んだそうだ。

 ボブの例に限らず、青の組織が<右下>主導、つまりルール・ドリブンということは、仮に現場の状況を理解しない人がルールをデザインすることになれば、それが机上の空論になるというリスクを秘めている。加えて、そもそも論として、物事が、<右下>でデザインした要約通りに進むとは限らない。要約についての個人の解釈にはぶれが出るし(左下)、個人の要約実現能力が不十分かもしれない(左上)。そうした諸個人が集まった集団の動きが、「要約されたルール」からさらに大きくぶれるリスクは排除できない(右上)。

 それだけに、事例で見たように、ルールを要約するリーダーが、折にふれて実際に現場に赴き、現場に生じる要約とのギャップを把握し、ギャップを埋める手を打つことが必要だ。ただし、その場合でも、ギャップを埋める手自体を、<右下>の新しい「要約」に織り込んで、あくまで「要約」を起点として物事を動かすという青のゲームの定石にはいささかも変更はない。なお、一流の青いグローバル企業であれば、ルール・要約を起点として物事を動かしつつも、ボブの場合と異なり、初めから現場の状況も十分読み込んで、適宜、要約・ルールを修正していくといった基本動作ができていることを付言しておこう。

 以上をまとめると、4ボックス・ゲーム・フレームワーク上で見えてくる緑と青の違いは、共同作業ドリブン(右上)なのか、ルールドリブン(右下)なのか、である。

 <右上>に重心のある緑と、<右下>に重心のある青は対照的であるが、補完的でもある。そういう両者のインタアクションは、矛盾に陥りやすいが、矛と盾が本来そうであるように、補完的にシナジーを生み出す可能性もある。その意味で大いに工夫の余地があるので、次回はそれを取り上げる。