●事業部の業務評価に、「イノベーション・メトリクス(測定指標)」を組み込む。検討されたアイデアの数や、新製品・新サービスの売上高などだ。事業リーダーは、新規アイデアの創出から実現までの流れ、そして商業化にかかる時間に注意を払うようになった。

●各事業部で「イノベーションの推進者(チャンピオン)」を任命する。イノベーション・メトリクスを向上させるプログラムやプロセスを実施する事業部トップを支援する、信頼できるリーダーだ。たとえば、イノベーションに関する言葉の定義を全社的に統一したことで、イノベーションのタイプ(製品の革新、オペレーションの刷新など)や、ステージ(アイデア創出、ラピッド・プロトタイピングなど)について全社員が共通の認識を持つようになった。

 また、推進者たちはオンライン上でトムソン・ロイター独自の「イノベーション・ツールキット」を構築した。社員はイノベーションについて自己学習したり、個々人でイノベーション関連のイベントを主催したりできるほか、アイデアを商業化にもっていくまでのプロセスも実行できる。

●イントラネット上に「イノベーション・ネットワーク」のサイトを設ける。社内起業家たちはこの場所でシナリオやアイデアを共有でき、また顧客の問題に対する新たな解決方法に関心を寄せる社員がつながるようになった。

●イノベーションに関するブログ、記事、社内イノベーターへのビデオ・インタビューを取りまとめ、コミュニケーション・キャンペーンを展開する。

●すべての事業部から代表者を集め、全社的なイノベーションのワークショップを開催する。その目的は、既存の資産を活用したイノベーションの具体案を10件特定して計画を立てること、そして100日以内にそれらを実施することだ。

 上記の取り組みはすべて、イノベーション精神の下に実験として始まった。学習と改良、そして何が有効なのかを発見することが主眼とされた。たとえばイノベーションの定義が改善されていくにつれ、イノベーション・メトリクスは精緻化されていった。最初に任命された少数のイノベーション推進者の経験に基づいて、その後の推進者を選抜する基準が明確化された。そしてどの取り組みも、可能な限り透明性をもって進められた。何が起きているかを全社員に周知するだけでなく、だれでも貢献できるようにするためだ。

 上記の取り組みは現在のところ、素晴らしい成果を上げている。イノベーションは社内で最もホットな話題となった。イノベーション・ネットワークは同社のイントラネットで最も閲覧されている。イノベーション・ワークショップでは社員から寄せられた250を超えるアイデアが検討され、うちいくつかはすでに着手されている。複数の事業を含む7つのプロジェクトがカタリスト・ファンドの出資を受け、プロトタイプと顧客への試験運用の段階にある。ほとんどの事業部は事業ポートフォリオにイノベーション案件を十分に抱え、アイデアの創出から実現までのプロセスが順調に動いている。やるべきことは山積しており結果を判断するのは尚早とはいえ、イノベーションに弾みがついているのは明らかだ。

 大企業の変革を可能にする、確実な手法はない。イノベーションのジレンマは今なお切実な問題であり、克服は容易でない。だがトムソン・ロイターの事例は、前進が可能であることを示している。ポイントは、リーダーがイノベーションの取り組みから得た教訓をイノベーション文化の醸成に活かすことだ。


HBR.ORG原文:How Thomson Reuters Is Creating a Culture of Innovation October 2, 2014

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ロン・アシュケナス(Ron Ashkenas)
シェーファー・コンサルティングのマネージング・パートナー。共著に『GE式ワークアウト』(日経BP社、2003年)、The Boundaryless Organization、最近の著書にSimply Effectiveがある。

ケリー・バーチ(Cary Burch)
トムソン・ロイターのイノベーション担当シニア・バイス・プレジデント。ビジネスとイノベーションで20年に及ぶリーダーシップ経験を持つ。