多くの推進者と同様に、チャーリーにも複数の動機があった。まず、IBMにおける長いキャリアを通じて、彼は大きな仕事を任されることがなかった(にもかかわらずロイヤリストとなった)。昇進のチャンスが少ないのは本人も自覚していたが、敬意を勝ち取りたいと強く願っていた。次に、彼は自分の職務に対して非常に真摯であり、既存のセキュリティ大手が提供できない何かをIBMにもたらす新たな企業を模索していた。自社の競争優位を高めたかったのだ(ライオンのように)。

 彼に内在する動機を理解し、IBMというマンモス企業とのやり取りを彼が助けてくれるとわかったので、我々はチャーリーを推進者として歓迎した。彼はやがて、セキュリティ提供者の候補リストに我々を加えてくれた(表向きは既存大手に対する単なる1候補として)。だれが決定権限者なのか、だれがどのような理由で妨害者になりえるかも教えてくれた。競合他社の動向についても、まるで我々のスパイのように詳細情報を提供してくれた。ゾーンラボという小さな企業がなぜ有望で、なぜ30万人を抱える組織の基幹コンポーネントを託せるのか――それを証明する説得力のあるストーリーを、チャーリーの助けによって示すことができたのだ。

 この案件における決定権限者は、当時IBMのCIO(最高情報責任者)を務めていたクリス・マシューズ率いる少数のIT専門家グループだった。マシューズのもとには、シスコやシマンテックをはじめIBMとの取引を望む企業のCEOが定期的に訪れていた。もし我々が勝者になれば、ゾーンラボの製品が全従業員のPCに導入され、これら競合他社の製品と肩を並べることになる。その場合には、競合製品を上回るサポートが必要になるのも承知していた。

 最終的に、選ばれたのは大手他社ではなく我々だった。100万ドル以上の受注に成功したばかりか、当時まだ販売されていなかった次世代製品のために、別途100万ドルの受注も獲得できた。IBMのサービス部門との関係も深まり、ゾーンラボ製品の主要な販路になってくれた。チャーリーはといえば、高いポテンシャルを秘めたデータ・セキュリティのソリューションを発掘した功績を評価され、IBMで揺るぎない尊敬を勝ち取った。

 推進者は、取引のトライアングルにおける重要な一辺を占める。しかし妨害者や決定権限者との協調も必要だ。この3者に対処しながら交渉を進めるには、彼らが個人的な動機と職務上の目的の両方(はた目には見えにくい)に基づいて判断を下すという事実を理解しておかねばならない。しかし、いったん推進者を味方につけてしまえば、それは大きな前進を意味する。リングに上がる準備が整ったということだ。

HBR.ORG原文:To Close a Deal, Find a Champion September 12, 2014

 

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ポール・V・ワインスタイン(Paul V. Weinstein)
シリコンバレーを拠点とするアドバイザー。テクノロジー、エンタテインメント、メディア関連の企業を支援する。これまで調達してきた資本は数億ドルに及び、総額で数十億ドルにも上る企業買収で中心的な役割を担ってきた経験を持つ。