4.集団的目標を設定する
 かつて、サッカー選手は決めたゴールに応じてボーナスをもらう時代があった。だがこの制度は、距離とポジションを考慮しないシュートを誘発していることに監督たちが気づいた時点で廃止された。現在のチームは、選手全員に適用される集団的目標を設定している。たとえば許容失点数、得点の最低目標、試合中の走行距離などだ。さらに、ボーナスもチーム単位で支給されるため、選手たちは金銭面でも損得を共にすることになり、共通のインセンティブを持つ。監督の中にはペップ・グアルディオラのように、勝ち取ったタイトルや決まったゴールの数よりも、攻守プレーの完璧さを重視する者もいる。つまり、チーム全体のパフォーマンスを高めたい、チーム全体に貢献したいという意欲をかき立てる学習目標に焦点を当てているのだ。

 対照的に、企業ではいまだに社員の神経をすり減らす「業績評価」というお決まりの慣行の下、幹部が個々の部下に目標を与える。その狙いは責任感を持たせること、そして目標によって社員の意欲を高め、達成した者に報酬を与えることだ。これで経営陣は十分に油を差した機械を管理しているような気分になっているが、実際には社員は不満を募らせる一方である。ますます複雑化し不安定化する環境では、目標を厳密に設定することも、いつ何をもってそれが達成されたのかを判断することも難しい。社員は意図的に目標を低く見積もり、定められた範疇を超えて貢献する意欲など消え失せた。結果として、企業は潜在能力を発揮しないまま運営されている。

 経営陣に求められるのは、縦割り・細分化によるマネジメントを捨てる勇気である。個々人に目標を割り振るのではなく、集団的目標を奨励するのだ。そうすれば、他人の努力にただ乗りする社員が明らかになり、チームメンバーは共通の目標を達成するために意欲を高め合うだろう。幹部は節目ごとの目標にとらわれず、ビジネスで真に重視したい要素を決めて社員に示すべきだ。そうすれば学習目標は迅速に達成され、新たな展望が開けるはずだ。

5.マネジャーはフルタイムのリーダーであれ
 優れた監督は持てる時間のすべてを、リーダーとしての役割を果たすことに費やす。みずからがフィールドに出てプレーすることはないが、40~50人の選手たちから最大限の力を引き出すために全力を注ぐ。丸1日を通して、チームを鼓舞し、教えを施し、技能を育み、行くべき道を示す。争いを解決し、ミーティングを行い、何十人にも言葉をかけて毎日を過ごす。これこそリーダーの真の任務である。

 一方、企業の幹部が社員を教え導く仕事に費やす時間は、平均でわずか20%しかない。残りの時間は、メールの返信、財務関係の話し合い、サプライヤーとの交渉、顧客に関する問題解決などに割かれている。社員に関することは、優先順位のかなり下にある。いわば選手兼任監督だ。サッカー界でも20年前までは一般的だったが、やがて兼任は有効でないことが明らかになった。経験豊かなリーダーがチーム指導に専念すれば、より優れた成果を達成し、より高い信頼を得るのだ。

 我々が話をした上級幹部たちの多くは、社員に十分な時間をかけていないと認めたが、仮にそうすれば他の職責がおろそかになると主張した。だれもが「フルタイムのリーダー」である必要はないが、そうしたリーダーがいればチームのパフォーマンスは大きく向上する。リーダーの時間はリーダーシップの発揮に使ってこそ有効であり、目標と約束の達成という見返りも生まれるのだ。

 サッカーチームよりも大規模で、より複雑な企業もあるだろう。また幹部が全社員と毎日交流するわけにはいかない組織には、さらなるガイダンスが必要となる。だが我々が本稿で述べた知見は、あらゆる形態・規模の組織に当てはまるものだ。複雑さと競争の激化に悩まされている企業は、群知能から得られるものがたくさんある。そして群知能の醸成こそ、企業のリーダーが果たすべき役割であり責任なのだ。


HBR.ORG原文:Learning Collaboration from Tiki-Taka Soccer July 2, 2014

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ウルフガング・イエネバイン(Wolfgang Jenewein)
スイスにあるザンクトガレン大学エグゼクティブ・スクールの教授。経営管理論を担当。同スクールのセンター・フォー・カスタマー・インサイトのディレクターも務める。

トーマス・コハネク(Thomas Kochanek)
スイスにあるザンクトガレン大学エグゼクティブ・スクールのリサーチ・アシスタント。

マーカス・ハイドブリンク(Marcus Heidbrink)
スイスにあるザンクトガレン大学エグゼクティブ・スクールの講師。専門はソーシャルスキル、コミュニケーションおよびリーダーシップ。

クリスチャン・シンメルフェニヒ(Christian Schimmelpfennig)
リヒテンシュタイン大学インスティテュート・オブ・アントレプレナーシップのエグゼクティブ教育担当ディレクター。