次にこのスタイルを進化させたのは、2008~2012年にバルセロナ監督を務めていたジョゼップ・グアルディオラ・イ・サラである(愛称「ペップ」。元スペイン代表選手、現在はドイツのブンデスリーガでバイエルン・ミュンヘンの監督)。選手たちは、それまで厳しく統制された動きを体得するために何年間も訓練を受けてきたのに、複雑なディフェンスに対してその動きがうまく機能していない――そう感じたグアルディオラはアシスタント・コーチらと共に、複雑なディフェンスに対して創造的に対処するプレースタイルを開発した。これは絶え間ない動きと迅速なパスで展開するプレーで、選手たちには優れたボールタッチとポゼッションが要求される。スポーツジャーナリストのアンドレス・モンテスは、速いパス回しのリズムをアメリカン・クラッカーの音になぞらえて、このプレースタイルを「ティキ・タカ」と呼んだ。

 こうして確立されたティキ・タカ・スタイルでは、戦略もパスのコンビネーションも常に変化するので、動きが予想しにくくなる。選手たち、そしてその絶え間ないパスは、相手チームのディフェンダーにカバーされにくくなる。その状況ではフィールドが静かになる、と言う人もいる。選手たちはパスを通じてやり取りし、パス1つひとつをチームメイトとの直観的なコミュニケーションの手段に使う。そこでは「自分」よりも「我々」が優先される。

 つまりティキ・タカという群知能は、現代サッカーの複雑化する守備に対する攻撃側の答えとして確立されたのだ。サイバネティックスの先駆者、ウィリアム・ロス・アシュビーが1950年代に指摘したように、複雑さに対抗できるのは唯一、複雑さしかないというわけだ。

 サッカーチームと同様に企業も、ビジネスの環境と進展の速度が変化していることを近年感じているはずだ。たとえば以前よりも短い間隔で新製品を発売しなければならない。1970年代には、自動車メーカーが次のモデルを発売するのはおよそ8年後だった。だが90年代までには、製品ライフサイクルは3年に短縮した。そして周知の通り、今日では競争に踏みとどまるために2年ごとにモデルチェンジをする必要がある。

 競争のあり方も複雑化している。企業は調達や製造のグローバル化を推し進め、新たなテクノロジーを基に破壊的変化をしかけてくるライバル、予想外の競争優位の源泉を持つ新興国市場の有力企業にも対峙しなければならない。KPMGが最近実施した調査によれば、回答企業の70%が「現在直面している最大の課題は複雑化である」と認め、また94%が「複雑な問題を首尾よく管理する能力が、主要な競争要因になった」ことに同意している。

 にもかかわらず、我々がヨーロッパの複数企業を相手に行った調査によれば、ほとんどの企業は現在直面している課題がいかにダイナミックで多面的、かつ相互関連的であるかを理解していない。急速に変化する複雑な世界に素早く適応するのではなく、全社会議で相変わらず士気をあおるようなスローガンを掲げ、危機に備えていっそう努力するよう社員にハッパをかけている。自部門の利益のみを追求するサイロ(縦割り)思考にとらわれ、硬直したトップダウン型のヒエラルキーを維持している。それが協力的な相互関与の障壁となり、マネジャーへの依存を助長している。

 このような環境下では、社員たちは取り乱すばかりとなる。チームとして立ち止まってじっくり考え複雑な問題への新たな解決策を見つける代わりに、どんどん速度を上げて突っ走り、同じ仕事を繰り返して行き詰まり、イノベーションに取り組めない。その結果は燃え尽き症候群と病欠の増加にも表れている。ほとんどの企業は、複雑化の進展が単に一時的な現象ではないことを理解できずにいる。だが実際は、複雑性こそ現在において唯一不変のものなのだ。したがって企業は、群知能を用いて複雑性に対処するという点で、世界の強豪サッカーチームから学ぶことがたくさんある。