では、目的を常に悪しき目的ではなく、あくまで経済的な目的とすればいいのではないか。そうすれば、このような組織は極めて経済効率的に目標を達成する有効な組織となるのではないか。

 経済的な数値目標を立てれば、それを実現するためにメンバーは合理的にそれを実現するように、命令と服従の原理にしたがって行動することになるだろう。その結果、企業にとって経済合理的な「目標による管理」は優れた方法になる。そこに、問題はないと考えるかもしれない。

組織の不条理

 しかし、本当の問題は、目的内容の良し悪しにあるのではない。実は、このような目的合理的な組織を構成する、メンバーの行動に問題があるのだ。すなわち、みな他律的だという点にある。

 他律的行動というのは、行動の原因が自分以外にある行動のことである。上司に言われたからとか、お金がほしかったのでとか、そういったルールだったのでとか、そういった制度があったのでとかなどを理由とする行動である。

 それゆえ、そのような行動は刺激に対して反応する動物や、後ろから押されると倒れる物体と同じような行動となる。そこに、人間らしさはない。それは、本質的には物体や動物と同じ他律的行動なのである。

 また、このような他律的行動には責任の概念が成立しない。その行動が失敗しても自分以外に原因があるので、上司に言われたのでやったとか、親に言われたのでやったとか、特定のルールや制度があったのでといって責任を常に回避できる。これが、アイヒマンだった。

 しかし、このような他律的行動を行う人間組織のもとで、経済合理的な「目標による管理」を展開すると、理想的な効率的な組織になるだろうか。そうはならないのである。

 トップが少し高めの数値を設定すると、それを実現するには、下位のメンバーにとって過度のコストを負担することになる。そのような過度のコスト負担にも他律的なメンバーは反応してしまうので、少し高い目標が設定されると、その実行コストを節約するためにメンバーは隠れて手抜きを行うことになる。こうして、「目標による管理」は夢のない目標、達成可能な低い目標、メンバーの潜在能力を引き出せない管理になりさがってしまう可能性がある。

 しかし、他律的人間から構成される組織には、さらに深刻な問題が付きまとう。経済合理的な「目標による管理」を展開すると、もっと恐ろしい不条理に巻き込まれることになるのである。

 たとえば、東京電力の原子力発電所の安全性をめぐる管理について考えてみよう。図1の縦軸をコストとし、横軸は安全性を高めるために形成・導入される制度数や安全設備数だとする。安全性を高めるために、たくさんの制度を形成し、安全装置を増やしていけば、事故発生確率は低下するので、原発事故をめぐるリスク負担コストは右下がりになる。ところが、制度や装置を導入すれば同時にコストも増えるため、制度や装置導入コストは右上がりになる。

 これら2つのコスト曲線を合計したものが総コストになり、安全性を高める場合、総コストは図のように下に凸の曲線になる可能性がある。図1からわかるように、最小コストとなる最適経済安全性と完全安全性が一致しなくなる。つまり、人間が経済合理的な「目標による管理」を追求する限り、より安全性の高い方向には進んでいかないのである。安全性をめぐって手抜きをしたほうが、経済合理的になるのだ。

 このように、経済合理的な「目標による管理」を展開すると、他律的な人間組織は安全性(正当性)を無視することになるという不条理に陥ることになる。では、この不条理をどのようにして解決すべきか。次回はこの問題を考えてみる。

後編の更新は、1月14日(火)を予定。  

 

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