組織内での助け合いは機能する

―― 「6つのシンプル・ルール」では、協働や助け合いを促していますが、一部の人に負担が偏ったり、かえって組織の複雑性が増したりしないのでしょうか。

モリュー:あなたが想定しているのは、部門を越えて協力すると余計にミーティングや報告が増えるのではないかということだと思います。しかし、それはまったく逆です。協力しない集団ほどミーティングが必要になり、レポートや報告が必要になるのが真実の姿なのです。ルールを導入して協力をすれば「仕事のための仕事」や「報告のための報告」が激減します。社員の重荷となっている煩雑な部分が取り除かれ、本当にやらなければならない仕事だけが増えていくことになるのです。ご質問に対する答えとしては「余計な負担は増えないし、仕事は偏らない」と申し上げられます。

 このことは、陸上競技のリレーを思い起こせばご理解いただけると思います。リレーは複数のランナーがバトンを受け渡していく競技です。ビジネスにおける複雑性の問題を解決するときに求められるのは、1人1人のランナーが100メートルを何秒で走れるかという絶対的なスピードではありません。複数の社員がバトンを渡しながらうまく協力し、すべての社員が早いスピードでゴールインすること。重要なのは、どれだけスムーズにバトンタッチができるチームかどうかということです。

 確かに、グローバル化が進む現代は、絶対的なスピードを持ったランナーを世界中から探すことは容易です。ビジネスでも、絶対的な能力を持った人材はどこの会社にもいると思います。しかし、私がこの本で言っているのは、複数の社員が協力して高いアウトプットを生み出すことなのです。

組織をいっきに変える必要はない

―― 権限を与えられる要となる人物には、高い能力が求められます。6つの「シンプル・ルール」を導入すると同時に、それを担う人材を育てることも必要なのでしょうか。

モリュー:協働の要を担う人には権限を与え、裁量の幅を与えるのは当然です。6つのルールの2番目、「協働の要を見つける」と3番目の「権限の総量を増やす」がそれに当たります。つまり、要になる人がどのようにして自らの知見を生かし、どのような判断をし、どのようなイニシアチブやクリエイティビティを発揮するのか。前半の3つのルールは、協働の要になる人を見つけ、権限の総量を増やすことに力点が置かれているのです。

 ただ、それだけでは十分ではありません。要になる人が、組織の目標にかなうような形で権限を使ってくれるように仕向けなければなりません。後半の3つのルールは、その点を確実に担保するために存在しています。とくに5番目の「助け合いの結果をフィードバックする」というルールは、フィードバックのループを作ることで、自分の行動がどのような結果につながるのかを認識させるためのものです。結果として、要になる人は複数の戦略目標のトレードオフに考慮して判断し、自分の権限を使うようになっていきます。

 このルールはゲーム理論でいう「将来の影」、つまり今日の行動が結果的に明日の自分たちに及ぼす影響の重要性を拡大するという意味を含んでいます。書籍では、複数の戦略目標に取り組むことで得られる結果を、従業員がより早く、頻繁に、長期間にわたり感じられるループをつくる方法をいくつか挙げています。