神田 では、どのような状況が訴訟に至ってしまうのでしょうか。

ダイアモンド 当然ながら、犯罪はその一つです。たとえば、私の子どもを傷つけた相手とは交渉しません。ただ、訴訟になる前にあらゆる手を尽くすべきだと思います。ほとんどの人はそれをしません。第一に訴訟と考える人は多いですが、訴訟は最後の手段としたほうが賢明です。

神田 笑い話があるのですが、アメリカの企業は収益の約3%を訴訟で使い、日本はお酒に使うとか(笑)。

ダイアモンド おもしろいですね。たしかに、お酒のほうが訴訟よりも良い関係を構築できそうですが、私ならもっと良いお金の使い道を捻出します。

神田 先生の著書『ウォートン流 人生のすべてにおいてもっとトクをする新しい交渉術』(集英社)では、成功する交渉のための12のアドバイスを紹介しています。そのほとんどが納得する内容だったのですが、1点、疑問に思った項目についてお聞きします。それは漸進的変化についてです。

 日本の政治家から聞いた交渉の成功例ですが、ある農業経営者と助成金に関する交渉した際、政治家は極端に低い額を最大額として提示しました。その額が、農業経営者の希望額とあまりにもかけ離れていたため、結果、農業経営者は譲歩しました。

ダイアモンド そのやり方には、まったく持って賛成できません。ルーレットで当たったからといって、次にまたルーレットで今度は全財産をつぎ込む人はいるのでしょうか。例外を基にルールづくりはできません。リスクを伴う状況下で、人は漸進的な変化を求めます。たまには成功するかもしれませんが、確率としては低いでしょう。

相手を騙すような交渉法は長続きしない

「先生のお話には、説得力と信頼性を感じます。いままでの交渉術を持ち込むのは恥ずかしいとさえ思いました」(神田)

神田 より理解を深めるために、個人的な経験を基にお聞きします。私はある取引先と契約を即座に打ち切りたいと思いながら、切りのいい一年前の日付で契約終了の交渉をする予定でした。ところが、他の従業員はそんなに待つ必要はないとの意見でした。どうすべきだったのでしょうか。

ダイアモンド いまの話は、どこを取っても相手を憤らせるものです。その結果、失うもののほうが大きいでしょう。私ならそういったアプローチではなく、「弊社は御社との取引続行に疑問を持っているのですが、御社はどうですか」と、まずは相手の意思を確認しながら進めます。その状況下で、双方にとって合理的な解決策を見出すための話し合いをするのです。

 そうしないと、相手は上手く操られているような気分になります。もしあなたが、即座に契約を切りたいと示唆しつつ、相手側の出方を見ながらその時期を決めようとしたら、相手はあなたの戦略的な態度に不快感を覚えるでしょう。人は、誰かに仕向けられている状況を敏感に感じ取るものです。上手くやりおおせるのは一度だけだと思うべきです。

 これは50カ国で3万人を対象に25年間研究した結果に基づいています。このアプローチを使えば、国を超えてあらゆる人とつながることが可能になります。

神田 先生のお話には、説得力と信頼性を感じます。いままでの交渉術を持ち込むのは恥ずかしいとさえ思いました。実は、この時の交渉は相手側が快く承諾してくれました。先生にご説明いただいたようなアプローチから入ったからかもしれません。先方の代表にそれまでの感謝の気持ちを述べることから始めました。

ダイアモンド 率直に話すことで、相手を尊敬する気持ちとあなたの正直さが伝わったのです。

神田 自分の正直な気持ちを相手に延べたうえで相手側の意見も聞き、より良い未来のためにどうしたら良いのかを提案するという先生のアプローチは、非常に理にかなっていると思います。

ダイアモンド 子どもが交渉する様子を観察してみてください。嬉しい、悲しい、疲れた、お腹が空いた。その時の状況を言葉にします。彼らは、われわれ大人の良い見本です。

 私たちは、2007–2008年の全米脚本家組合ストライキを解決に導きました。まず脚本家たちを呼び、スタジオのトップにこう言うようにアドバイスしました。「あなたたちは現状に満足していますか、経営面はどうですか。私たちは正当な収入を得ていませんが、あなたたちはどうですか」

 その結果、一年続いた言い合いがたった二日で解決しました。それは、現状を話し合ったからです。それまでくすぶっていたものを表面化することが大事です。もし私が、誰かとそりが合わなくなったら、相手とその理由を話し合います。

最終回の更新は12月26日(金)を予定。

 

【書籍のご案内】

『ウォートン流 人生のすべてにおいてもっとトクをする新しい交渉術』(スチュアート・ダイアモンド 著、櫻井祐子 訳)

ビジネスでは、商談、待遇の改善要求、抗議など、「交渉」がすべてといっても過言ではない。一方、私たちの普段の生活もまた交渉の連続だ。配偶者と家事を分担したい、レストランの料理が遅い、交通違反で警官に止められた、といった場面も、実は「交渉しだい」なのである。そして、驚くべきことに、国際紛争を解決に導くのにも、子どもに歯みがきをさせるのにも、まったく同じ交渉術が役に立つ。しかも、その交渉術は誰でも学べるもの、今すぐ実践できるものなのである。世界中の企業や国家のトップが教えを請う「交渉術の権威」が、その極意を伝授。

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『ストーリー思考』(神田昌典 著)

2009年刊のベスト&ロングセラー『全脳思考』で提示したチャートを、国内外の様々なコンサル事例で活用し、達成した成果から「ストーリー思考」が生まれた。ストーリー思考がもたらす5つの仕事力を示し、実践するための具体的手法「フューチャーマッピング」を7つの実験としてステップバイステップで伝授する

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