ダイアモンド 研究の結果、私たちを成長させるのは相手を理解する行為であり、一人より誰かと一緒に考えたほうが、アイディアも取引も6倍多く生まれることがわかっています。

 アメリカをハリケーンが襲った際のことです。私の生徒たちは誰よりも早く飛行機に乗れました。なぜでしょう。他の人々は航空会社に「自分はファーストクラスを予約している」など、航空会社の担当者に自分の主張を繰り返したのです。私の生徒は「ご家族は元気ですか」と尋ねました。その一言が相手の心に届いたのです。

 人はこのように機能します。誰しもが根本的に一人の人間であり、仕事や形式張った話しかしないなんてナンセンスです。日常的にプライベートは存在します。ビジネスの話ばかりする行為は、人を人として扱わない行為を正当化するようなものだと私は思っています。ビジネスライクな会話にも、私的な話は絶対に必要です。

神田 トヨタ自動車の社長は真摯に謝罪し、その時点から、両当事者の反応は変わったように思います。ただ、社員レベルでは社の価値観を守ろうとする姿勢が見られました。これは企業人として当たり前のことだとも思うのですが、いかがでしょうか。

ダイアモンド ジョンソン・エンド・ジョンソンが販売していた鎮痛剤に、第三者によって毒が混入され、服用した7名が死亡する事件が80年代アメリカで起きました。その事件が発生した直後に、ジョンソン・エンド・ジョンソンのCEOはテレビ出演し、「全社員を代表して深くお詫びします」と言いました。彼は全責任を取ると発言し、その迅速で見事な対応が社を守ったのです。

すべては他人とのつながりから生まれる

神田 トヨタには企業の価値観ではなく、従業員一人ひとりの価値観と被害者との個人的なつながりが重要だったわけですね。

「売上げは技術や法律の説明をしっかりすることで上がる訳ではありません。相手とのつながりから生じるものです」(ダイアモンド)

ダイアモンド なぜ人はトヨタの車を買いたいと思うのでしょうか。トヨタ自動車という企業につながりを感じるからです。車だけではありません。企業や販売元とつながりを感じた時に購入したいと思うのです。

 企業は、企業としてよりも、人間同士のつながりを大事にしなければなりません。アップルはこのことに長けています。アップルストアに入ると、会社との個人的なつながりを感じますね。他の企業にとって、彼らは良い見本です。

神田 アップルの従業員は、お客様との接客を通して交渉術を学んだということですか。つまり、従業員がお客様一人ひとりとつながることによって、それが企業のブランディングに発展していったのでしょうか。

ダイアモンド その通りです。売上げは技術や法律の説明をしっかりすることで上がる訳ではありません。相手とのつながりから生じるものです。販売する側はこのことを承知しています。この人は感じが良いから、あまり要らないけど買ってみようかな、または、あの商品よりも劣るかもしれないけど、買ってしまおうという気持ちになります。すべてはつながりから生まれるのです。