神田 現在、アップルとサムスンが3年に渡り法廷で争っています。もしこの交渉術を実践していたら、争い自体が防げたと思いますか。

神田 昌典(かんだ・まさのり)
経営コンサルタント・作家
上智大学外国語学部卒。ニューヨーク大学経済学修士、ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営学修士。大学3年次に外交官試験合格、4年次より外務省経済部に勤務。戦略コンサルティング会社、米国家電メーカーの日本代表として活躍後、1998年、経営コンサルタントとして独立。コンサルティング業界を革新した顧客獲得実践会(のちに「ダントツ企業実践会」、現在は休会)を創設。同会は、のべ2万人におよぶ経営者・起業家を指導する最大規模の経営者組織に発展、急成長企業の経営者、ベストセラー作家などを多数輩出した。1998年に作家デビュー。現在、株式会社ALMACREATIONS代表取締役、公益財団法人・日本生涯教育協議会の理事を務める。

ダイアモンド そう思います。私なら、次の質問を当事者同士で投げかけ合うようにアドバイスします。

「営業部と法務部、どっちに収益を渡したほうが得ですか。弁護士に払う分を営業マンに回したほうが良いと思いませんか。私たちが世界の市場を牛耳っている訳でもないのに争うのはなぜでしょうか。双方で力を合わせることでもっと市場獲得が可能になります。過去を変えることはできません。逆に、いまできることは何かを考えませんか」

 弁護士は過去の出来事に対して争うのです。なぜサムスンがアップルのアジア代理店となり、アップルがサムスンのアメリカ代理店になるというような構想を描けなかったか。私ならそこを突きます。人類の歴史は経済成長とともに歩んできました。過去の出来事を争う人々は経済成長を妨げるのです。

神田 つまり、両社は70年代の実例の上に立って争っている訳ですね。

ダイアモンド 両社の世界観は狭すぎます。もっと大きな視野を持ってほしいと思います。

交渉相手に完璧さは求めないが、正直さは求めるもの

神田 2009年に起きた突発的な急発進によるトヨタ自動車の大規模リコールのケースはどうでしょうか。トヨタ自動車はアメリカ市場で大きな損害を経験しました。

ダイアモンド 人は相手に完璧さを求めませんが、正直さを求めるものです。トヨタ自動車はもっと真摯に謝罪すべきだったと思います。申し訳が立たないことを引き起こしてしまったけれど、私たちはふたたびお客様に安心をお届けしたい一心で、その準備を整えています。批判を受け入れる態勢でいます、と。

 人はそのような相手に人間性を見出します。すべての国の文化に当てはまらないかもしれません。ただトヨタ自動車は世界的ブランドです。物事は総体的に判断すべきです。

神田 発生当初、トヨタ自動車は市場に誤った印象を与えてしまい、そのことがさらなる争いを招いたということですね。その後、欠陥車ではなかったと認められましたが、相当な時間とコストがかかりました。

ダイアモンド 彼らのなかには、いままでの古いやり方しか存在しなかったのでしょう。数千年もの間、地球は平らだと人類は信じてきました。それが、ある日突然、地球は丸いのだと認識したのです。それを認識した前日までは平らだと思い込んでいましたよね。人は突然変化することができますが、そのためには正しいことを思い描く必要があります。