妊娠を公表していないのに、明らかに妊娠に関する商品ばかりの広告を受け取った女性は不快感を抱いたという。そして「おむつの隣に芝刈り機が掲載されている広告」(妊娠に関する商品が、目立たないようランダムに混入されている場合)には、より好意的な反応を示した。記事はターゲットの幹部の発言を引用している。「妊娠中の女性は、自分が見張られていると思わない限り、クーポンを使ってくれます。怖がらせなければ、効果はあるのです」。なお、デュヒッグが記事の内容を別の幹部に見せたところ、「正確でない情報」を含んでいると反論されたという。このため内容には誇張があるかもしれないが、次のような教訓は残る。予測分析の効果は、実際の人間がいかに反応するかで決まる。分析の精度だけが重要なわけではない。

 顧客だけでなく従業員についても、このような状況に直面することがますます増えるだろう。特に福利厚生や健康促進の分野で、従業員の行動に及ぼしうる影響は大きい。

「人材分析は何を予測できるのか」の答えを急ぐ風潮のなかで、もっと重要な問題は、「人材分析は何を予測すべきか」であろう。

 法令の順守だけでは十分な答えとはいえないだろう。『アメリカン・ビジネス・ロー・ジャーナル』の記事「従業員を傍受する雇用主」は、「アメリカの法制度による従業員のプライバシー保護は、十分ではない。ますます巧妙化しつつあるモニタリング行為によるプライバシーの過度の侵害に対して、対策が整っていない」と結論している。適切とされる基準は企業によって、そして人口統計上のグループによって異なるだろう。グーグルの従業員たちは私の取材に対し、「自分のデータが自社の人事部で管理され分析されている限り、私たちは信頼しています」と答えた。

 グーグルの従業員は特別かもしれない。個人データとアナリティクスを通じて世界に変化をもたらす企業に勤めているのだから。しかしプライスウォーターハウスクーパースの調査によれば、世界の従業員の3分の1、なかでも将来的に労働人口の主力となるミレニアル世代(1980年前後~1990年代生まれ)は、個人データを雇用主と共有することに抵抗がないという(英語サイト)。加工食品会社コナグラ・フーズの人材分析・報告部門バイス・プレジデントのマーク・ベリーは、「我々は、顧客と同じくらい従業員についても知りたい」と述べているが、収集してよいデータとそうでないデータを選別・保護する基準を設けていると付け加えた。

 プライバシー保護の基準は、どのように構成されるべきだろうか。予測によって「可能なこと」と「許されること」のバランスは、どうあるべきか。これらの答えを見出すには、分析の厳密性を保ちながらも、そこに人間性と職業倫理への配慮と理解を上手に反映させる必要がある。

 人事部は答えを見出す恰好の立場にあるが、はたして人事部のマネジャーたちはその準備ができているだろうか。人事の関係者、関連製品のメーカー、説得力のある話などに後押しされ、分析やデータ処理のスキルを高めようと努めてはいるだろう。だがもっと重要な、そして人事部ならではの役割がある。リーダーたちが「予測できること」と「予測すべきこと」のバランスをとれるよう、助けることだ。


HBR.ORG原文:Predict What Employees Will Do Without Freaking Them Out September 5, 2014

■こちらの記事もおすすめします
従業員を電子的に監視すると、業績にどう影響するのか
ピープル・アナリティクス:優れた営業担当者の行動パターンを明らかにする
グーグルは組織をデータで変える

 

ジョン・ブードロー(John Boudreau)
南カリフォルニア大学マーシャル・スクール・オブ・ビジネスの教授。経営学を担当。同大学のセンター・フォー・エフェクティブ・オーガニゼーションズの研究ディレクターを兼務する。