企業は、コスト削減にとどまらない成果を目指している。人材予測分析は、過去志向で受動的な事務報告であった人事の仕事を変革するものとして注目されている。組織に具体的な成果をもたらす行動や態度、能力を予測するための、戦略的で統合的なモデルになるという位置づけだ。人材予測分析の活用度と企業の業績は相関することを示す調査結果もある(英語記事)。

 この手法をさらに推し進めるグーグルは、医療系ベンチャー企業のカリコを立ち上げ、分析ツールの活用による平均寿命の向上を目指している。また報道によれば、グーグルの人材分析部門が追求しているテーマの1つは「グーグルで働くことで寿命が1年延ばせるか」であるという(英語記事)。働き方と生産性の向上を追求するうえで、企業が従業員の情報をどれほど分析できるかはソフトウェア次第だ。

 人材分析から得られるインサイトは、こんな合言葉を生んでいる――「自社の顧客について知るのと同じように、自社の従業員について知る」。これが消費者へのマーケティングで使われる言葉と似た響きを持つのは、偶然ではない。ブランド、セグメント、価値提案、エンゲージメントといったマーケティングの概念は、人事の改革にも役立つ比喩だ。しかし、ややデリケートな問題もある。

 チャールズ・デュヒッグの著書『習慣の力』に記されているように、マーケティングは消費者の何気ない習慣に働きかけて影響を及ぼすことが多い。デュヒッグは、毎日午後3時半に社員食堂でクッキーを買う習慣があったという。これには昼下がりの倦怠感と、自分の机から離れて噂話に興じたいという欲求が入り混じっていると彼は自覚した。クッキーはこの習慣における「報酬」だったが、体重増加の一因になっているのは間違いない。自分の真の欲求(クッキーではなく気分転換)を見極めることで、彼はクッキーの習慣をやめることができたという。

 仮にこのような間食の習慣がある従業員を、その人の仕事のスケジュールと社員食堂での購入履歴に関するデータを活用した予測分析により見つけ出し、その結果を健康促進のために本人と共有するとしよう。当人は喜ぶだろうか、それとも困惑するだろうか?

 この問題を、マーケティングの実例で考えてみよう。妊娠は、顧客に通常なら変えたがらない購買習慣を変えさせる出来事である。このため、小売業者は妊娠の事実を可能な限り早い段階で知りたがる。2012年にデュヒッグがニューヨークタイムズ紙に寄せた報告によれば、米ディスカウントチェーン大手のターゲットのマーケティング・アナリストたちは、顧客の購買傾向やその他の人口統計上の情報に基づいて、妊婦を特定する予測アルゴリズムを構築した(英語記事)。それらの顧客に対しターゲットは、妊娠に関連する商品の広告を発送した。妊娠中の女性に、必要な商品やサービスをできるだけ早い段階で知らせてあげることに、何か問題はあるだろうか。