そして積極的な採用活動に歯止めをかけようとするのは、ますます無駄な努力になりつつある。ジャック・イン・ザ・ボックス(米大手ハンバーガー・チェーン)の人間がマクドナルドで勤務中の店員に接触することは可能だし、ある企業のエンジニアが競合他社のエンジニアに話しかけることもある。

 eコマース企業ザッポスは求人公募を取りやめて、代わりに自社サイトに「インサイダー」のページを立ち上げた。同社の説明によれば、「将来ザッポスで働きたいと望む可能性のある人」が、このインサイダー・プログラムに登録、「ザッポスと連絡を取り続け、名前と顔が明らかな本物の人間同士の交流をします。我々社員のことを知ってもらうと同時に、私たちもインサイダーを知ることができる場です」ということだ。

 マイクロソフトは2011年、〈Kinect for Windows〉の開発チームを拡充するために、ベーコンを無料で配る屋台トラックを利用してエンジニアを勧誘しようとした。「スワイナリー」ブランドのペッパーベーコン、そしてトッピングにチーズ、チリソース、ピーナツバター、メープルシロップ、チョコレートソースなども無料で提供するこのトラックには、マイクロソフトのヘッドハンターが同乗し、昼食の時間帯にアドビやグーグルのビルの近くに駐車して店を開いた(英語記事)。

 したがってウーバーとリフトは、現在のような採用活動が不作法か否かの議論に終始するのをやめ、もっと戦略的に重要な問いに目を向けるべきである。自社あるいは他社は、運転手にとって最善の「提供価値」を創出できるのかという問題だ。もっとも両者は、すでに考えているのかもしれない。対立の勃発から時間が経つにつれ、ウーバーもリフトも運転手の待遇を重視する姿勢をアピールしている。

 これはすべてのリーダーが、自社の重要な人材について自問すべき問題だ。配車サービスの運転手と同じように、あなたの組織の核となる人材も、技術の進歩によって別の働き口を得ることがたやすくなっている。

 企業評判サイトのグラスドア(Glassdoor)、転職情報サイトのモンスター・ドットコム(Monster.com)、そしてリンクトインにはだれもが馴染んでいる。最新の例としては、メディアビストロ(Mediabistro.com:マスコミ関連の情報サイト)傘下のエージェンシースパイ(AgencySpy:広告業界関連の情報サイト)のページ内で、広告制作会社の実際の制作現場を動画で見せるキューブス(Cubes)などがある。そして今後、従来型のフルタイムの雇用という枠にとらわれない、より多様で働きやすい仕事の選択肢はますます増えるはずである。

 配車サービスの運転手は、スマートフォンをタップするだけで別の雇用主を見つけ仕事を変えることができる。あなたの職場の重要な人材はいまのところ、従来の雇用・人事面の慣行がつくり上げた「殻」――報酬、肩書き、企業文化など――の中で安全に保護されているのかもしれない。タクシーやリムジンの業界も、少し前まではそう信じていた。

 部下が勤務時間中に別の仕事を探すのをやめさせるには、どうしたらよいか――そればかり考えている人は、もっと大きな問題を見過ごしている。自社の戦略を可能にしてくれる貴重な人材に、最善の職場を提供できているかどうかだ。


HBR.ORG原文:Uber-Style Talent Poaching Happens in All Industries September 3, 2014

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ジョン・ブードロー(John Boudreau)
南カリフォルニア大学マーシャル・スクール・オブ・ビジネスの教授。経営学を担当。同大学のセンター・フォー・エフェクティブ・オーガニゼーションズの研究ディレクターを兼務する。