2.モバイル・メッセージ
 2008年のはじめ、私が所属するデザイン・コンサルティング会社フロッグは、南アフリカでHIV感染を防ぐ官民協働キャンペーン、「プロジェクト・マシルレケ」に参加した。これは非営利の社会事業コミュニティであるポップテックの主導によるイノベーション促進プログラムで、当社はそのネットワークに連なるさまざまなパートナーたちと協働した。

 初期の重要な成果として、南アフリカのプラエケルト財団が開発した技術を活用できたことが挙げられる。モバイル技術を人々の生活改善に役立てているこの非営利組織は、南アフリカで2番目に大きな通信事業者であるMTNと関係が深い。同財団は、既存の通信ネットワークで活用されていなかったスペースを利用して、HIVへの意識を高めるテキストメッセージを配信するという方法を見出した。通常のデータ通信にこれらの啓発メッセージが挿入される仕組みを開発し、国営のエイズ電話相談窓口に寄せられる反応を測定した。すると相談件数は3倍に増え、MTNも顧客にアクセスする新たなチャネルを手に入れるというウィン・ウィンの結果がもたらされた。

3.病気の自己診断
 上記のキャンペーンでフロッグは、HIV患者と結核患者にケアを提供する現地の医療組織iティーチとも協働した。妊娠検査と同じように、HIV検査キットを配布して個人が独力で診断できる仕組みをつくるためだ。この検査キットは安価で、手順がわかりやすく、携帯電話を通じたサポートも受けられる。HIV感染率が推定で40%を超えているような地域では、これは既存の診断方法よりもはるかにコスト効率がよく、広い普及につながる。

 この方法をそのままアメリカで適用しようとすれば、倫理的な問題が大きく立ちはだかる。しかしこのイノベーションは、エンドユーザーがリアルタイムで遠隔カウンセリングを受けながら、病気の診断と対処をより主体的に行う未来を示唆するものだ。たとえば低価格の遺伝子検査のようなイノベーションによって、さまざまな疾患を、いまよりもはるかに正確かつ安価で発見し対処できるようになる。その一例として、医療系ハイテク企業のナノバイオシム(Nanobiosym)が開発した診断プラットフォーム、〈Gene-RADAR〉がある(小型の検査キットを使いHIVや結核、癌などを短時間で正確に検査できる)。現在この技術は一部の新興国市場でのHIV検査に試験運用されており、今後は発展途上国に広く展開される見込みだ。

4.プリペイド型のライフライン
 発展途上国の多くの地域では、携帯電話でチャージできるクレジットは実質的に通貨として扱われ、これまで金融サービスを受けられなかった貧困層に新たな決済手段をもたらしている。この「トップアップ革命」(トップアップとは、使いたい分だけ利用クレジットを購入しチャージすること)の影響は、モバイル決済(Mペサ)から農業、エネルギー供給にまで及んでいる。(小規模農家のための小額保険を提供するケニアの「キリモ・サラマ」プログラム、電力を分割前払いで購入できるインドのシンパ・ネットワークスなど。)

 フロッグは最近、インドで社会事業を営むサルバジャルとの協働を開始した。配水システム、クラウド技術、モバイル決済を融合し、清浄な水を必要な時に、必要なだけ購入できる、いわば「マイクロ・ライフライン」という新たな仕組みをつくるのが目的だ。サルバジャルが提供するこの「水のATM」(ICカードで水を引き出す)によって、ライフラインに対する人々の認識と関わり方がどう変わるのかを現在、検証している。水道や電気を扱う企業はサルバジャルのような社会的企業を通して、発展途上国やその他の市場におけるエネルギー消費の未来について学べるのだ。