変革をスタートする号砲としての
ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)

 ここまで設計図のHOWの役割を解説してきたが、まだら模様のグローバル化において、成り行きではなく意図的に青色化していくとすれば、どこからこの設計図を書き換えていけばよいのだろうか。その有力なオプションが、HOWの三つめの役割とした行動規範(バリュー)である。この点を、設計図の話の締め括りとして敷衍しておきたい。

 バリューは、しばしば、ミッション・ビジョンなど広義の目的(WHY)とセットで議論され、三位一体となって従業員の行動をガイドする。このセットを、Mission, Vision, Valueの頭文字をとってMVVと呼べば、MVVは設計図のDNAといえるだろう。MVV部分の変化は、緑の企業にとって、その程度はともあれ、青色に向けた変革の号砲と位置付けられる。

 実際にまだら模様のグローバル化が進んでいると見受けられるA社の事例をかいつまんで紹介したい。

 A社では、日本人CEOの下で、外国企業の買収や外国人をボードメンバーに加えることや人事制度の変更も含め、組織の青色化がかなりのスピードで進みつつあり、変革の初めにMVVに着手したわけではなかった。しかし、日本的な組織運営なども一部では根強く残り、全体としてはまさにまだら模様となって、全体観が見失われつつあったため、MVVを大きく変えることで、いわば新しい憲法を制定し、青色化への切り替えの一貫性を確保しようとしている。

 その結果、A社のMVVは、緑色企業的なMVVから青色企業的なそれに変わった。具体的には次の通りである。

 まず、項目名が「経営理念」「経営方針」「行動原則」から、それぞれ「ミッション」「ビジョン」「イズム/バリュー」に変わった。カタカナにすることの是非はあろうが、このような基本事項の項目名として、世界標準的な用語を用いることには象徴的な意味があるだろう。

 まず「経営理念⇒ミッション」では、その中身はそのまま引き継がれていて変更はない。ここはまさに不易の部分であり一貫性を担保している。

「経営方針⇒ビジョン」では、これまで示されていなかった期限が設定されている。表現形態についても、経営方針では、「●▲で世界をリードする」などごく普通の5つの文が順番に並べられているだけだったが、ビジョンでは構造化の工夫がなされている。すなわち、一つの最上位概念を掲げた上で、それを、①事業、②組織、③人材という三つの柱に因数分解し、全体の構造が一目瞭然となっている。言葉も簡潔になった。

「行動原則⇒バリュー」では、もともと「堅実」などいかにも緑企業らしい用語とその説明が並ぶだけだったが、バリューでは、中心的な概念と外縁的な概念を分ける形で構造化されている。中心的な概念には緑企業らしい表現を残しつつ、外縁部的な概念にはダイバーシティ、イノベーションなど青色の外資系的でモダンな用語を採用している。

 要するに、A社が、MVVを切り替えた際、一方で、より外国人にもなじみやすい用語や構成に大胆に変えつつ、他方で緑系企業として守るべき理念やミッションの中身の同一性を堅持するというバランスに留意している。特にバリューの中心と外縁の二重構造が示す和魂洋才を想起させるこのようなバランスのとり方は、日本企業がグローバル化していく上での一つのアプローチとなるだろう。

 2回にわたり、グローバル組織への変革を助ける道具としての設計図について説明した。次回は、この設計図とセットで使えるゲーム理論的な集団行動の基本的な枠組を紹介したい。