行動規範としてのHOW

 HOWの三つめはいわゆる行動規範である。これは、多くの企業でバリューとか理念等さまざまな用語で呼ばれている。

 青い組織では、行動規範は、繰り返し参照されてリマインドされる。文書化されるのは当然として、事業計画策定の際など経営の意思決定の場面で「それが行動規範にかなっているか」というチェックが入るし、ビジネスにおける日常会話において、特にマネジャー以上は、バリューの言葉を交えて語ることが基本的なたしなみとされる。HOWの二つめでケイパビリティを見出す際にも、リーダー選定やリーダーの評価基準として行動規範(リーダーシップバリュー)を活用することもごく普通である。

 これらの機能としては緑の組織において同質的な長期雇用者の間で共有されている暗黙知的な空気・文脈が果たすものと似ているが、青の行動規範は明示化されて、しつこくそれに言及する点が異なる。多様な人材を採用して、代謝率もそれなりに高い中で、価値観を共有するには、それこそ本気になる必要がある。

 たとえばGEは、成長と最高のパフォーマンスを志向する文化を涵養する行動規範(バリュー)を堅持しており、それを体現しないと同社のリーダーは務まらない、という中心的な位置を占める。評価制度も研修プログラムも、バリューに沿ったものとなるように徹底されている。関係者の話を聞くと、バリューの項目や内容は、経営環境の変化に照らし、折にふれて見直されるようだが、その根底には「人と組織を活用して価値を実現して勝つ」という考え方があるようだ。

 特に日本企業として学ぶべきだと思うのは、バリューを日常会話に織り交ぜて身近なものにする点と、人材を選抜する際に、業績と並んで価値観を体現しているかどうかをきっちりと評価している点だ。

 実際、マネジャー以上には、同社の価値観を体現することが求められる。たとえば、仕事上の会話をしている中で、明確でない発言や整理されていない発言があれば、「明確な思考(clear thinker)」というバリューに照らして、「それはclear thinkingじゃないな。もっとシンプルに言い換えてくれ」、といったつっこみがすかさず入るそうである。先にふれた1カ月に1度の面談の際にも、業績の進捗と並んで、価値観の実現についても具体的にコメントされるという。野球の選手が、コーチから打撃フォームや投球フォームについて具体的に助言を得るのと同じように、思考や行動の型(フォーム)としてのバリューをみなで実践している姿を髣髴とさせる。

 緑の組織においても、行動規範を明確に定めて文書化している例はごく普通に見られる。特に、創業者がかつてこういう人を大切にしたとか、こういう行動を大切にしたという逸話とともに行動規範が定められている例には事欠かない。ただ、創業者がいなくなって時代を経ると、文脈に依存した、暗黙知的な規範がHOWとして機能する力(規範力)はどうしてもゆるくなる。

 また外国人の間における規範力はそもそも弱い。かといって、青の組織のように、評価制度に組み込んで仕組的に堅持したり、日常会話でリマインドし続ける習慣を醸成したりするといった手はあまり試みられない。おそらく、緑の組織における行動規範は、そのような人為的な方法でわざわざ浸透させるものではなくて、長期雇用で同質的な人々の間で空気を吸い込むように自然に吸収されるものという位置付けなのだろう。