CSVを組織で実践するカギは

 しかし、これが企業という組織の価値観との間にギャップが出来ているのも確かです。

「利他の精神」を掲げる企業は多くても、実際の個々の経営判断において、必ずしもそれが実践されていない例は枚挙に暇がありません。達成すべき目標や数字を前提に意思決定すると、自社の利益をどう確保するかで余裕がなくなり、その事業や事業プロセスが与える社会への影響などへの洞察が抜け落ちてしまいます。複雑かつ巨大化した経済システムの中で、細分化された仕事を担う現場では広く社会を見渡す視点が抜けやすいですし、与えられたミッションに対する個別最適解が全体最適に結びつかなくなります。

 個人レベルの思いではCSVに共感できても、組織レベルでは実践されない。この合成の誤謬はどのようにすれば解消されるのでしょうか。

 ビジネス書的な処方箋は、①経営トップ自らがコミットし、②CSV専門の組織を立ち上げ、③部門に予算をしっかりつける、ということになるでしょう。しかし、これだけでは不十分に思えます。

 キーになるのは、CSVのヒーローをつくることだと考えます。予算達成や売上増加を目標としている企業の現場で、社会貢献を口にすると「青臭い」と扱われます。青臭さを感じさせる背景は、理想論、きれいごとと受け取られてしまからでしょう。

「青臭さ」を「現実論」に脱皮させるカギはイノベーションにあります。理想論とは、実現する手段が見つからない願望レベルのアイデアです。実現する手段が見つかれば現実論に変わります。先のユニリーバも環境負荷の半減と売上げ倍増を掲げて「理想論」の域にとどまらないのは、イノベーションによって、この困難な課題を両立させる方法を模索しているからです。製品開発の現場では、重量を半減させて出力を倍増させるといった取り組みがあるように、CSVにもイノベーションが求めらます。

 そして、イノベイティブな解決策によって、社会的課題の解決も経済価値の増大にも結び付けることができた事例こそ、理想論を現実論に変えるカとなります。企業の中で一人でもそれを実践できた人が現れると、企業は変わるものです。CSVのヒーローが、青臭いと思われていた議論に勇気をもって立ち向かい力を与えてくれるのです。(編集長・岩佐文夫)