――自分で課題設定をしなければならなくなった日本人が、身に付けなければならない課題設定の作法のようなものですね。

 前回もお話ししたように、これまではアメリカが課題設定をしていたというわけですが、そういう状況で、しかも、日本がまだ発展途上国の時代に課題設定をきっちりやった人たちがいました。その成果が、国民皆保険と東海道新幹線です。どちらも私の言う「社会システム・デザイン」の優れた例になります。

 新幹線が開設されたのは、日本だけでなく世界中がこれからは航空機の時代だと考えていた時代です。そんな時代に、「鉄道に将来がある」という感覚をもとに優れた課題設定をした人たちがいた。そして、見事に課題を解決して、新幹線という新しい経済価値を創出して見せました。

――今は、リニア新幹線が話題ですが。

 リニア新幹線について、私もよくその将来性を聞かれたりします。判断はむつかしいのですが、どちらかというと否定的です。私の予想は、海外ではいざ知らず、すでに新幹線が活躍している日本においてはおそらくリニア新幹線はその必要性において意義を失うこともあり得ると考えています。

――なぜでしょうか。

 現在の新幹線の高速化に向けた技術革新により、リニアが要らなくなる可能性があるからです。過去のいろいろな分野の経験からいって、ここまでが限界とされていたことが限界ではなくなる「限界の突破」は、予想以上に早く起きることがあります。

 新幹線はすでに時速400キロでの営業運転が視野に入ってきているようです。あくまでも試験走行ですが、フランスのTGVは直線コースで時速570キロ超を出しています。日本は線路に曲線が多いので難しいのですが、車体を軽量化し、防音技術などを調整することで既存技術でも高速化は確実に進むのでしょう。リニア新幹線のスピードには追いつかないまでも、時間効用の観点からあまり差がないということになりかねません。

 昨今の技術革新によって以前考えられないことが現実になっています。例えば、エレクトロニクス技術の活用によって、これまでわかっていなかった動作メカニズムのきめ細かい分析と連続的微調整による限界の突破があらゆる領域で起こっています。グリーンディーゼル・エンジンにしても、耐震構造を超えて免震構造や制震構造なども、かつては想定しなかった形で既存の技術が改善されて実現してしまう。同じことが新幹線にも起こってもおかしくありません。そうした中、どこまでリニアに固執していいのかというと、疑問ですね。

――今の新幹線でもそこそこスピード出せるので、リニア新幹線は必要ないのではないかと。

 そうなる可能性は大いにあるでしょう。でも途中で方向転換ができないという問題にどう対処するかでしょう。ハイビジョンがまさにそうでした。1964年に開発がスタートした頃は、まだアナログでしたから、デジタルという概念はありませんでした。そこで、MUSE方式を苦労して開発したのですが、その途中にデジタル・テレビ送信技術の登場で、結局はMUSE方式の本放送は実現しませんでした。

 ことほどさように、課題設定は簡単にはいかないのです。技術革新によるこれまで越えられないと思っていた限界の突破、他の技術によるリープフログ(後ろから飛び越えて前に出ること)、経年による想定以上に早い陳腐化、テロなどこれまで想定しなかったリスクに対するもろさなどいろいろなことが起こります。これらによって、あっさりと課題は書き換えられてしまいます。

 経営コンサルティングでは、これらすべての要素を取り込んで課題設定をしなければならないので、これまでの課題設定に想定した前提条件を常に目を光らし、それが変わるような不連続な状況が出てくればすぐに課題設定をやり直すべきです。

 しかし、高齢化問題をはじめ社会的現象は、もう少しテンポが遅いので、政策を考える場合は、そこまで厳密に考えなくても課題設定はできると思います。