●eコマースの売上げの約半分は、実際にはリアル店舗を持つ小売企業の懐に入る。リアル店舗のみによる小売業は依然として、小売業全体の売上げの94~97%程度を手にしている。大規模な店舗を拠点に持つ小売企業のなかには、アマゾンを凌ぐスピードでオンライン販売による売上げを伸ばしているところもある(アップルや百貨店のメイシーズなど)。

●eコマースによる売上げを、その他の売上げと区別するのはますます難しくなっている。たとえば、ある顧客がメイシーズの店舗に行き、商品の在庫がないことを知り、その商品をメイシーズの別のアウトレットにスマートフォンから注文し、その日のうちに商品を自宅で受け取ったとしよう。これはeコマースによる売上げになるのか、それともリアル店舗での売上げだろうか?

●オンラインのみで販売する小売企業は、多くの人が指摘するほどの経済的メリットを得てはいない。上場しているeコマース企業(無敵のアマゾンを含む)の収益性をベイン・アンド・カンパニーが分析したところ、eコマースにおける価格の優位性は主として、コストの低さよりも、持続不可能なほど低い利幅によることが明らかになっている。eコマース企業が必要とするIT技術、配送センター、出荷、返品処理には、実際にはリアル店舗と同程度の費用がかかる場合がある。

 これらの論点はすべて、次の結論を示している。デジタルとリアルのどちらか一方、もしくは両方を別々に追求する企業よりも、両方の最も優れた部分をシームレスに融合させた「オムニチャネル」を実現する企業こそ、圧倒的な優位に立つだろう。オムニチャネルを提供する小売企業にとって、ウェブサイトと携帯アプリは単なるeコマースの注文手段ではなく、店舗への入口である。そして実店舗は単なるショールームではない。デジタル化され、顧客にインスピレーションを与える場であり、実験室、購入場所、商品を受け取るために一瞬立ち寄る場所、ヘルプデスク、出荷センター、そして返品場所である。

 客の物理的な来店は、店舗の成功において以前ほど必須ではなくなっている。オンラインでの売上げのうち、近隣の顧客からの注文が20%程度あるならば、店舗には(オムニチャネルの拠点として)存在価値がある。オンライン販売に特化して事業を始めた企業の多く――メガネのワービー・パーカー、女性用スポーツウェアのアスレタ、ジュエリーのバウブルバー、メンズウェアのボノボスなど――がいまではリアル店舗も出しているのは、このためである。

 ベインの分析によれば、これらの原則は小売業を超えて広く当てはまる。ほとんどの産業において、デジタル技術は物理的(フィジカル)なビジネスを衰退ではなく変容させている。デジタルとフィジカル双方のイノベーションの融合、つまり「デジカル」が生み出すチャンスに、ほとんどの企業はまだ気づき始めたばかりである。デジカル体験こそ、顧客が求め期待するものなのだ。

 デジカル戦略をうまく実行すれば、ほぼどんな場合でも競合企業を凌ぎ、高収益を保ちながら成長を加速させられる。これらの変化の最前線に立つのは小売業者かもしれないが、他のどの業界の企業にとっても、この変化を無視できる余裕はない。

HBR.ORG原文:E-Commerce Is Not Eating Retail August 14, 2014

■こちらの記事もおすすめします
「ショッピングをエンターテインメント体験に」 バーニーズの新戦略
スターバックス、グーグル、アリババ 銀行は破壊者にどう立ち向かうか
デジタルを取り込むリアル店舗の未来

 

ダレル・リグビー(Darrell Rigby)
ベイン・アンド・カンパニーのパートナー。小売事業とイノベーションの専門家。著書にWinning in Turbulence,HBR寄稿論文に「デジタルを取り込むリアル店舗の未来」(DHBR 2012年7月号)がある。