我々の研究では、多大なストレスを伴う状況(仲間や子ども、リーダーの死など)を事前に仮想体験させることで、困難な状況から立ち直る力(レジリエンス)を養うという方法も模索している。また、人の非言語行動を感知して反応・対応できる仮想人間も開発中だ。自動コンテンツ作成ツールにより、シナリオを個別の状況に合わせカスタマイズできる。いまや新しいソフトウェアと既製のハードウェアを用いて、いかなる人物(あなた自身、あなたの上司、あるいはライバル)でもモデルにして仮想人間がつくれるようになっている。

 あなたは部下に、解雇を告げなくてはならないとしよう。その部下をモデルにした仮想人間がいれば、無個性の(特定の人物をモデルにしていない)キャラクターを相手にした場合とは違うシミュレーションができるはずだ。外国人との会議を何カ月もかけて準備したのに、1杯のお茶を断っただけで失敗に終わったらどうだろう? 適切な対応法を事前に練習できていたらよかった、と悔やむのではないだろうか。あなたがプレゼンの練習をしている相手は、あなたの話し方に基づいて反応するようプログラムされた仮想の聴衆だとしよう。彼らが居眠りを始めたら、どうするだろうか。現実で同じ目に遭う前に、プレゼンをもっと工夫しようと努力するはずだ。

 我々の仮想人間の開発はまだ初期の段階ではあるが、その成果は有望だ。我々が開発した「エリート」(Emergent Leader Immersive Training Environment)は、没入型のバーチャル環境の中で尉官と下士官に業績評価の仕方を訓練するシステムだ。その運用結果を見ると、受講者たちは知識の記憶力と適用能力を伸ばし、スキルの活用に対する自信を深め、リーダーシップにおける対人コミュニケーション能力の重要性をより強く意識するようになっている。

 他の観察結果によれば、体験者たちは仮想人間とのやり取りを、生身の人間相手のロールプレイと同等に活き活きとしてリアルだと感じていた。私自身、仮想空間の教室にいる仮想の受講者たちに質問する時は爽快な気分になる(そして、彼らが生身の人間と同じリアルさで退屈そうに背を丸めていたり答えを不明瞭につぶやいたりするのを見ると、気落ちする)。

 しかし生身の人間と異なる点として、仮想人間は報酬を必要とせず、いつ何時でも働くことができる。すべての受講者に対して一貫性のある対応ができ、必要とあれば個々のケースに合わせた変更もできる。さらに、このシステムには成績を記録し評価する査定ツールを組み込むことも可能だ。

 もちろん、技術のみで万事解決とはいかない。最近刊行されたUsing Experience to Develop Leadership Talent の中の1章、「バーチャル・リアリティとリーダーシップ開発」で私が述べたように、仮想人間やビデオゲームによるシステムの効果は、それをプログラムする人間の能力によって決まる。仮想人間がいくら真に迫っていても、やはり単なるインターフェースにすぎず、その基となる教育設計に欠陥があれば効果はない。そのため我々は、仮想人間を通して教える内容、学習が生じる仕組み、そして成績を継続的に向上させる方法について、技術面と同等の重点を置いている。

 シミュレーションの技術は、人材の教育・訓練方法を――特に対人コミュニケーション能力の分野で――変えると私は信じている。いつの日かマネジャーとリーダーは、飛行前にシミュレーターでの訓練を課せられているパイロットと同じようになる。きっと遭遇するはずの難しい状況への対処法を、仮想人間で訓練することが日常になることだろう。


HBR.ORG原文:How Virtual Humans Can Build Better Leaders July 25, 2014

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ランドール・W・ヒル・ジュニア(Randall W. Hill, Jr.)
南カリフォルニア大学クリエイティブ・テクノロジー研究所(ICT)のエグゼクティブ・ディレクター。バーチャル・リアリティとビデオゲームを利用した学習体験に関する専門家。同大学でコンピュータ・サイエンスの研究教授も務める。