バーニーズの競合相手は
ディズニーランドだ

上田谷 ところで石倉さんは、最近はどのような研究をなさっているのですか。

石倉 人材のクラウド・ソーシングの可能性に関心を持っています。企業などの組織は、自前の人間にこだわらず、世界中から必要な能力を持つ人を集めてプロジェクトをやる。一方、個人はeラーニングなどで能力を磨き、プロジェクトで実績を積む。仕事全体がフレキシブルに展開できるような仕組みづくりができないか、と考えています

上田谷 その話には、今よくいわれている女性の能力の活用も含まれるのでしょうか?

石倉 最近政府や企業の間では、女性管理職の比率を何%にするというような動きが盛んです。しかし、こうしたスローガンは何年も前からいわれていますし、なかなか実行されていません。これだけ遅れている日本企業が、女性をはじめとする多様な人材の活用を世界レベルにするには、これまでと違うアイデアが必要だと思うのです。
 例えば、企業は、プロジェクトベースにできる仕事から、その仕事に最適な人を世界から集めるクラウドソーシングというやり方を始めてみる。これは最初からうまくいくとは限らないので、実験を繰り返して、経験を積んでいく。一方、個人は、eラーニングなどITを活用して、常に新しい知識やスキルを学ぶ。新しい知識やスキルは学ぶだけではダメなので、それを実践するプロジェクトに参加する。企業はプロジェクトを多数することで、生産性を上げる。個人は、いろいろなプロジェクトに参加して、実績を作る。
 これからの時代、変化が加速化する中で、個人のキャリアも、一社だけ、一つの機能だけで終わるとは思えません。個人も、もはや一つの仕事の型にとどまることが前提ではなく、複数のキャリアを考え、実行できるような仕組みが必要だと思います。そうなると、仕事や能力を考えるときに、個人のセルフブランディングがとても重要になると思うのです。

上田谷 うちの子どもたちなどは、将来はどんな風に仕事をしていくのか。今までとは全く違う働き方をするのでしょうね。

石倉 そうなのです。ところで、上田谷さんご自身は、これから何をしたいと考えているのですか。

上田谷 小売・サービス業の輸出をしたいと思ってます。とても重要な付加価値を産み出している産業だと思うのですが、一部の業態を除き低付加価値産業のように思われることが少なくなく、実際,働いている人の報酬水準も一般には高くはありません。
 それはなぜかといえば、1にも2にも事業としての利益が少ないからです。そのためには、まずは稼ごうということで、業界平均をはるかに超える利益率目標を掲げています。小売は労働集約型の産業なので、全社員の給料を一律に上げるのはなかなか難しいかもしれませんが、せめてハイパフォーマーには他の産業に負けない待遇にしたいと思っているので、まず自社が他の産業に負けない収益を上げなければと。

石倉 具体的なアイデアとしては、どんなものが。

上田谷 国内の顧客の来店頻度を増やしたり、購入単価を上げたりするのはもちろんですが、外国からのインバウンド客の増加策も考えています。日本のサービスは世界最高です。クリスピーの時代にも他国の経営者が来ると、日本のお店のクオリティの高さに驚いてくれます。「こんなに地価と人件費が高く、アルバイトも多く使っているのに、このサービスの質の高さは何なのだ」と。バーニーズでも、米国バーニーズのCEOとサービス向上の取り組みについて情報交換をすると、「日本はその点は心配することないじゃないか」と言われます。
 実際、母国に同じブランドを扱っているお店があるにもかかわらず、日本のバーニーズで買ってくれる外国人のお客さまがたくさんいます。その理由を尋ねると、「日本のバーニーズで買うのは気持ちがよいから」と言われます。

石倉 つまり小売で外貨を稼ぐ、ということですね。

上田谷 サービス業で外貨を稼ぐ、というのはありだと思います。そのために利益率の水準を上げ、次に、無形のホスピタリティも含めて再現性のあるモデルにまとめ、外国で展開する。こうしたことはやってみたいですね。
 私たちの仕事は、ある意味でエンターテインメント産業なので、来店して楽しい思いをしてもらい、ちょっとだけ財布の紐を緩めてもらう。ひょっとしたらバーニーズの競争相手はディズニーランドかもしれません。

石倉 すばらしいですね。大いに期待しています。今日はありがとうございました。
 

【対談を終えて】

 上田谷さんは、20年近く前、大前事務所で仕事をしていた時からの知り合いです。若いのによくやるなあ、と思って、私のクラスのゲストによんだこともあります。それ以降、黒田電気、ディズニー、クリスピー・クリーム、バーニーズ・ニューヨークと転職したことは知っていましたし、私の方からマネジメント調査を依頼したこともあったので、今回の対談は本当に楽しみにしていました。

 会ってみたら、そんなに時間がたったと思えないほど全然変わっていない、昔の若々しい、はつらつとした感じがそのままだと思いました。これまで3社の社長をしてきたと履歴だけ見ると(実際、対談の準備でインタビュー記事などを読んで、感心していたのです)とてもすごい人だと思うのですが、今の仕事が本当に好きだということが、言葉の端々、そして表情からも明らかで、自分のことのようにうれしくなりました。

 話をよく聞いていると、業績を立て直す、あるいは日本市場を開拓するなどはっきりした使命を帯びて外からよばれているという自分の役割の自覚と業績への責任を正面からとらえて、社員を巻き込みながら着々と成果をあげていることがよくわかりました。肩に力が入っていない、でも堅実にそして就任してなるべくはやく大きく舵を切ることを実践してきた人の静かな自信が感じられて、新しいリーダーというのはこういう人たちなのだ、と勇気づけられました。

 外からの雇われ社長は、いつ仕事がなくなるかわからない芸人のようなもの、大きな決定をして揺るがないことがトップの役割、仕事を代わってすることができないが、理念や哲学を理解するために猛勉強する、簡潔なミッションとなぜそうなのか、というストーリーを伝えることが重要、結果としてゼネラリストになった、などのお話はとても興味深いものでした。淡々と必要なことを実践する、創業者やオーナー社長とは一味違うプロの経営者のモデルになるのではないか、と思いました。

 バーニーズ・ジャパンに来る前からバーニーズの商品を着ていた、どこにでもバーニーズらしさを自分が示すために出かけていく、小売業はエンターテインメント、日本のサービス業はサービスの品質がダントツなので、外貨を稼ごうなど、堅実であり、同時に広い視点でものを見ているのが印象的でした。

 以前「プロフェッショナル・マネジャー」という話をよく聞きましたが、新しい時代のプロ経営者だと思います。