ゼネラリストかスペシャリストか

石倉 雇われ社長は芸人のようなものだ、とおっしゃいましたが、これからはビジネスマンも「自分は何者か」を明確にするセルフブランディングが重要だと思うのです。というのも、多くのルーティンワークはITが行うようになり、世の中の仕組みやビジネスの手法がどんどん変わる中で、個人が自らキャリアをデザインしていくことが求められています。例えば、大きなくくりとして、自分はゼネラリストを目指すのか、ある分野のスペシャリストになりたいのか。これからは、企業に任せるのではなく、一人ひとりがこの問題を考えなければならないと思いますが。

上田谷 私自身は、結果的にゼネラリストになってしまったようですが、よいことだとは思っていません。「T字型人間」などといいますが、私には軸となる専門性がなく、それは弱みだと思っています。

石倉 上田谷さんは、コンサルティングの経歴をお持ちですが、私はゼネラリストでコンサルティングができるのか、という疑問を持っています。以前から感じてきたことですが、これだけ世界が複雑になり、変化が激しくなってくると、戦略的なコンサルティングにはどうしても専門的な分野への理解が必要です。ある分野については明確な強みがあり、同時に広がりがある、つまり深さと幅を備えなければなりません。上田谷さんの場合は、ゼネラリストといっても、マーケティングなどにも詳しくT字型と言ってよいのではありませんか。

上田谷 やはりマーケティングのプロではありません。ただ、3社ほど中堅規模のB2Cの会社でしたので、いかにお金をかけずにマーケティング活動を行うかという経験は自分の財産になっていますかね。

石倉 というと?

上田谷 ノイズを上げることでフリーパブリシティを最大化するという手法です。ラグジュアリーブランドや大規模小売りチェーン等であれば宣伝費もある程度の規模で使えます。しかし、中堅小売業では予算が限られている。バーニーズが宣伝費を思い切ってかけたところで、「砂漠に水」です。とすると、世の中に話題を提供して「タダ」でたくさんの記事を書いてもらうしかお客さまにインパクトのある手がないのです(笑)。
 例えばクリスピーを大阪に初出店した時は、同時期にミスタードーナツが別の業態を近くに開店しました。これをすべてのキー局が「クリスピーがミスドの本拠地に殴り込み」などと報じてくれました。挙げ句は、ヘリを飛ばして開店待ちの行列の長さまで報じていました。ものすごい広告宣伝効果です。
 味をしめてバーニーズ ニューヨーク新宿店の改装オープンの時は、同時期に大規模に実施した伊勢丹新宿店の改装や、東横線と副都心線が相互乗り入れをして新宿への「回帰現象」がニュースとなって、相乗効果が起きるタイミングを見計らいました。案の定、ニュース番組などが「今始まる新宿回帰」などと報じてくれました。結果的に、他人の力をお借りしてしまった形ではありますが(笑)。

石倉 他人の力もですが、それは上田谷さんの実績だと思いますが。ところで、上田谷さんは、「自身のセルフブランディングとは?」と聞かれたら、何と答えますか。

上田谷 そうですねぇ……自分より仕事ができるプロの人たちとがっちりと握る、ということでしょうか。

石倉 セルフブランディングといってもいろいろな側面があり、一言では言いにくいかもしれません。お話を伺っていると、自分の実力や実績を謙虚にとらえるとか、バーニーズの歴史を徹底的に勉強するとか、何事にも一所懸命とかが、私には印象的です。それぞれはリーダーとして、当たり前の資質かもしれないけれど、その組み合わせ、パッケージの面白さ、ユニークさは、なかなかないのではないでしょうか。その点、上田谷さんは非常にユニークですね。