雇われ経営者は
外様の芸能人のようなものである

石倉 バーニーズの前はディズニーストアやクリスピー・クリーム・ドーナツなどの社長を務められていますが、同じ小売でもファッションは初めてですね。上田谷さんは、この仕事がとても好きなように見えますが。

上田谷 大好きです。ファッションは嗜好(しこう)性が強いビジネスですので、好きでないと難しいかもしれませんね。実際、バーニーズに転職するきっかけも、バーニーズだからという点は大きかったです。前職在職中は、業績も社内のチームワークも極めて良好だったので、ヘッドハンターからのいろいろな誘いを断っていたのですが、たまたまバーニーズの話をしてくれたときは、思わず方針転換してしまったくらい、すごくうれしかったです(笑)。

石倉 とはいえ、実際社長になってみると、オーナーや2代目とは違う苦労があるでしょう。

上田谷 プロ経営者といえば格好よく聞こえますが、要は雇われ社長ですから業績が低迷すれば、当然、株主から責任を問われます。また生え抜き人材よりも、より厳しく結果を問われます。当然雇用の保証もありません。自分でもあえて「雇われ社長」と口にするのは、コツコツやって結果を出さないと次はない、という自分への戒めでもあるのです。オーナー経営者の友人たちが、ダボス会議に出席したり、頻繁に海外のトライアスロン・レースに参加したりしていて、羨ましいなと思うのですが、能力も度胸も小さな私には怖くてできません(笑)。

石倉 そのように、自分に厳しく規律を課すというのは、経営トップとして求められる資質であり、条件だと思います。

上田谷 考えてみると、芸人さんに近いのかなと思います。評判を下げず、実績を上げ続けないと、契約更新もないし、外からも声がかからなくなってしまう。そんな感じです。どうしても社長をやりたくて社長になったわけではないのですが、一度社長を務めると、それからはそういうオファーが増えて、逆にどんどん選択肢が狭まってきます。自分自身のメンタリティとしても、もはやサラリーマン的に上司の下で働けない体になってしまった気がします(笑)。そういう意味で、どんどん狭いエリアに迷い込んでしまっているな、という気もします。

石倉 雇われ社長としてオーナーや株主、社員の間に挟まれて苦労している人も少なくありません。上田谷さんはそのあたりどう対応しているのですか。

上田谷 その点、私は幸せでしたね。ディズニーでもクリスピーでも伸び伸びとやらせてもらえました。バーニーズでも株主には非常に恵まれています。社長就任時は、東京海上キャピタルが運営するファンド(TMC)と住友商事がほぼ半々を持ち合い、2013年にTMCの持ち分がセブン&アイ・ホールディングスに譲渡されました。
 ファンド傘下で雇われ社長をして疲弊する人の話を聞きますが、TMCは非常に忍耐強くフェアな投資会社で、僕たちの新しい戦略をエグジットする最後までしっかり支えてくれました。住友商事も、一環してブランドの売り買いではなく「じっくりと小売事業に取り組む」というスタンスです。また、バーニーズの場合、株主が資本を同率で持ち合っていることもあって、特定の株主との間で利益相反に苦しむことがなく、極めて公平、公正、かつ客観的に「バーニーズにとってよいことと悪いこと」を判断してくれています。なので私は株主対応でストレスを感じたことはありません。これは、私にとって非常にありがたいことです。

石倉 上田谷さんはかつて、大阪の黒田電気にナンバー2として招かれ、海外事業の展開に取り組まれたことがありますが、社長とナンバー2の最大の違いは何だと思われますか。

上田谷 最終責任は社長にあるので、実はナンバー2の方が思い切った行動や決断ができます。社長になると全ての財務諸表がドーンと肩にのしかかってきますので、リスクのある新規投資の決断に対して逆に慎重になります。だからこそ、先ほどお話ししたように、社長に就任した初年度はチャレンジできる絶好のタイミングなのです。