絶対に失敗が許されない環境でも、
挑戦する気持ちを忘れてはいけない

――JAXAの方とお話をしていると、税金を無駄にしてはいけないという責任感が強い印象があります。逆に言うと、そのことが失敗を避けるブレーキになることはありませんか。

 おっしゃるように、失敗が怖くなることもありますが、失敗を恐れている暇があったら、失敗しないようにするためにどのような設計にすればいいかを考えたほうがいい。やり方はいろいろあるはずなので、それを追求したほうが生産的です。たとえば、機器が一つ壊れても、ミッション喪失とならないためのバックアップを持てばいいのです。要するに、故障することを前提にした設計です。

 もちろん、お金には限りがあります。何でもかんでもバックアップを持てばいいというわけではありません。資金的な制約があるなかで、私たちは必死に設計の最適解を求めています。それがチャレンジであり、そこにもおもしろさを感じているのかもしれませんね。

――たった一つの失敗が宇宙飛行士の命を左右するというのは、とても大きなプレッシャーですよね。

 現在のISSは安定運用に入っているので、命に関わる事態が起こるリスクは低くなっています。しかし、組み立てている途中、つまり安定運用に入る前は、何が起こっても不思議ではありませんでした。

 ドッキングに失敗したらどうなるのか、空気が漏れたらどうするのか。ダイナミックに動いているときは、そうしたことが常に緊張感があります。私たちは宇宙飛行士の命も預かっているので、そのプレッシャーは生半可ではありません。

 だからこそ、通常は宇宙飛行士の活躍ばかりに視線が向くと思いますが、その背後には多くの人が気をつかいながら運用していることは知っていただきたいと思っています。

――正解がない挑戦をするうえで、チームとして一つの結論を出すのは困難だとも感じます。

 よりよい解を求めるには、チーム全体で考えなければなりません。でも、そこはたしかに難しいポイントです。開発や製作はメーカーとチームを組んでやります。メーカーには多岐にわたる専門家がいて、彼らは各分野のスペシャリストです。ただし、専門家としての立場に立つが故に、全体の方向性とは異なる設計をしてしまうこともあります。場合によっては矛盾が生じたり、システム全体のバランスがよくなかったりということがあるのです。

 私たちがつくっているものは量産品ではありません。時間をかければ、それはすべてコストとして反映されます。いいものをつくろうとして、いたずらに時間をかければいいというものではない。トライ・アンド・エラーにも限界があるなかで、いかに無駄な時間を省いて一つの結論を導くか。そこが私たちの腕の見せ所なのかもしれません。

――最後に、幼少の頃から宇宙に魅せられた伊藤さんが、この仕事に関わっている間に道筋をつけたいことを教えてください。

 2030年代後半には、国際協力のもとで有人の火星探査を実現させようという話が出ています。私が目指しているのも、子どものころからの夢である惑星探査です。それほど簡単に実現するものではありませんが、距離的にも環境的にも地球に最も近い火星は、目標としては最適だと思っています。

 火星探査に向けた国際協力プロジェクトは、国家レベルでも議論が始まっています。火星に行くためにJAXAはどんな技術を持っていなければならないか、そのためにどのような研究が必要か。最近は、そんな話をするようになっていますね。