日本の「なんとなく」実現されない社会への貢献

 こうして14年間のニューヨーク生活(途中3年パキスタン駐在)を終えて日本に帰ってきたわけだが、コンサルティングの世界に飛び込んでみて思ったのは、グローバルな問題や普遍的価値、あるいは社会課題といったことに対する感受性や身近さの温度差が、日本社会全体の中でも、特定の業界の中でも、一つの企業の中でも非常に大きいということである。

 日本の若者が「内向き」だといわれて久しいが、一方でグローバルでも戦える能力を備えた大学生や大学院生は少数だがきちんと増えている。日本企業はなかなかリスクを取らないといわれているが、大企業でも中小企業でも果敢に新興国市場に進出を試みる意欲的な会社がある。企業の体質は旧態依然というが、革新的な経営者が頭角を現してきている。

 ただ、日本社会においては一般に圧倒的安定多数の意見と少数派の意見が共存するということが難しく、少数派は常に多数派の意見に合わせることを求められるように思う。また、人権や平和や正義といった普遍的な価値を声高に唱道することは格好よくなく、むしろ「いわずもがな」「不言実行」で「なんとなく」実現することが好まれる。その結果「なんとなく」実現されない場合のしわ寄せ、つまり弱者の痛みは社会の多数に明示に共有されないし、新しいアイデアや方法を社会の多数に認めさせるには多大なエネルギーと工夫と資金とを要する。

 これは社会全体のみならず会社でも学校でもその他の組織でも制度でも同じであり、いつのまにか優れた個人や少数派の可能性を押しつぶし、希望とやる気を摘み取ってしまう構造となってしまっている。そしてこのことが、激しく流動するグローバル社会への日本としての適応力を大きく削いでいるのだ。

 その逆の例を見よう。ユニリーバというもともとオランダの会社がある。石鹸から始まった会社だが、いまではヘアケア、スキンケアをはじめとする化粧品から、掃除用品、洗剤、食品に至るまでさまざまな消費財を扱っている強大な企業である。そしてこの会社が最も重要視するのは「サステナビリティ」であり、その社是は「よりよい明日を創ること」であり、経営トップからサプライチェーンの末端に至るまで、会社の存在そのものが社会貢献、といえるレベルにまで、経営理念とオペレーションの中に普遍的価値や正義の実現という課題を組み込んでいる。日本の企業において、往々にしてCSR(企業の社会的責任)が少数派による意見と活動でしかないのに対して、世界で最も強い企業の一つであるユニリーバにおいては、社会への貢献は会社の目的そのものであり、また会社の強みそのものだ。

「政策」と「利益」を経営に取り込む
2つのアプローチ

 日本国憲法の前文に日本国民の意志として明確に記されている通り、これから15年後や30年後にも、あらゆる変化を乗り越え克服し、日本には世界の発展と繁栄のために名誉ある地位を占めていてほしい。そのためには、ユニリーバの例からも明らかなように、長期的に持続可能でグローバル社会に明確に貢献できるような企業活動と企業経営が必要であり、普遍的価値や公共政策と利益を統合して経営理念と運営に取り込んでいくことのみが、グローバル社会における競争力を確保する方法といえる。それゆえに、私はコンサルティングという視点から、日本企業の底力と付加価値を世界に提示していくために二つの分野で革新的な提案を行っていく。

 一つは、これまで多くの企業が正面から向き合って来なかった公共政策との連携や普遍的価値の実現を、義務としてではなくビジネスチャンスとしてとらえ、具体的な機会として創造し、利潤を上げるビジネスモデルとして確立することだ。これまで、特に海外においては国際機関事業についても政府開発援助についても、これらの成果を積極的な投資の機会としてとらえ、持続的なビジネスとしていくモデルは確立されていない。その理由は、規模感の相違、情報の非対称性などさまざまであるが、公的ドメインと民間リソースをつないでwin-winを創り出すことは、我々コンサルタントが挑戦すべきテーマであろう。

 もう一つは、日本の組織経営の中に普遍的な価値を具現化するということだ。デロイト トーマツ コンサルティングは私が入社してから国連グローバル・コンパクト・ジャパン・ネットワーク(GC-JN)のメンバーとなったが、その目的は自社の中で人権・労働基準・環境対応・腐敗防止を徹底することにとどまらない。むしろ、日本企業社会の中でこうした価値や方向性を主流化し、アジェンダとして提言し、日本企業のグローバル経済におけるルール形成能力強化をサポートし、日本経済をコア筋肉の部分から強靭にすることがその意図の中心にある。

 以上、私が20年余にわたる公務員生活から経営コンサルティングに転身した理由と、国際機関の動向とビジネスとの関わり、国際機関と企業の価値観や行動規範など、本連載の展望の一部について述べた。次回は、最後に触れた普遍的価値として国際社会が真剣に追究しはじめている「幸せ」とは何か、経営にどのように取り入れるべきなのかを考えていく。