経営教育とは何か

 昔の経営者には「経営なんていうものは理屈じゃない。度胸と勘だ。それは現場で自ら掴み取るものだ」などという人が多かった。「先輩の背中を見て盗め!」というのも日本人が好きそうなセリフである。もちろんそういう面もあるが、経営教育に長く携わってきた私の確信はこうである。「座学で経営者の仕事全体を効率的に学べる。座学こそ経営人材育成の近道である」

 優れた経営者なら、叩き上げの人でも、どうやら私の意見に賛同してくれるようだ。「若いうちはゼネラリストは不要。自分の専門に必死に取り組み、雑務を嫌がらずにやることでいろいろなことが見えてくる。若いうちに高めた専門性を背景に、30歳代半ば以降に経営学修士号(MBA)のようなゼネラリスト的な能力に挑むべきだ。そこで経営幹部に上れるか、管理職でとどまるかが決まる」(日本電産社長・永守重信氏の発言。日経産業新聞 2014/4/1 、19面 )永守氏は今最も注目される創業経営者の一人で、「勘と度胸の人」のように見られがちだが、MBAの価値を見抜いている人ではなかろうか。

 ここであらためて経営者を育成する方法を整理しよう。その方法は3つある。一つは現場で修羅場の経験を積ませるOJT(On the Job Training)である。一番効果的なのは、若いうちに子会社のトップの経験を積ませることだ。この方法は効果が最も高い。しかし難点は人材を配置するポジションを数多く用意できないことである。また失敗すると、その本人も周囲も大きく傷つき、トータル・コストが高いという短所がある。本物の刀を持たせ、いきなり真剣勝負に挑ませるのは討死の可能性すらあり、危険すぎる面がある。

 二つ目がOFFJT(Off the Job Training)、つまり座学である。こちらはOJTと比べるとリアリティでは劣る。しかし多くの人に教育機会を提供することができる。また安全で、間違った判断をして失敗発言をしても傷は小さい。いわば竹刀を使った修練であり、相対的にコストが安い。

 そして三番目はCoaching、ないしMentoringのシステム化である。日本経済新聞の名物記事「私の履歴書」を読むと、著名な経営者がかつて先輩や上司、社長といった人々に助けられたという回顧談がよく出てくる。仕事や人生の重要なターニング・ポイントとなる場面にメンターがいて、その助言やサポートによって飛躍のチャンスをつかんだという話である。人が成長するには、周囲のフォーマル、インフォーマルな助力・助言が要る。人材教育のために企業はそれをシステム化して、意識的に組織にビルトインする必要がある。GEなどの外国企業などでは、「〇〇人のメンターになるべし」という明確な規範を経営管理層に課しているところがある。