孫正義氏はゼロから事業を立ち上げたアントレプレナーである。世の中を革新する孫氏のような起業家を日本は待望している。だから起業家を量産するシリコンバレーをモデルに、「日本にもシリコンバレーを作ろう!」という政府の構想が何度もたち上がった。しかし今のところ、どれもうまく行っていない。そしてシリコンバレーを見てきた私の目から見ると、それは無理だと思う。なぜかといえば、日本のベンチャーを取り巻く社会インフラと、シリコンバレーのそれは成り立ちから大きく異なり、そのまま持ち込むのは無理があるからだ。

 例えばシリコンバレーでは、有能な学生から起業を目指す傾向にある。企業に必要な技術やカネ、人的サポートなどを比較的容易に調達できる環境がそろっている。しかし日本では経営資源であるヒト、モノ、カネ、情報(技術やノウハウ)は、大企業に偏在している。優秀な人は大企業に集まり、辞めたがらない。だからベンチャーが優秀な人を確保できない。また大企業にはたくさんのモノ(設備)やカネが眠っているが、ベンチャーがモノを利用できない。カネがベンチャーに流れる仕組みも未発達である。技術も大企業に蓄積されている。多くの特許を大企業が握っているため、ベンチャーが製品開発をしようとすると、大企業の特許に抵触する。技術使用を許諾してもらおうと思っても、大企業が首をタテに振らない。かくして新事業立ち上げに必要なヒト、モノ、カネ、技術などの経営資源は、日本では大企業に偏り、それを必要とするベンチャーには回ってこない構造なのである。

 しかしもし、その大企業が社内でベンチャーをインキュベート(孵化)しようという気持ちになって、社内ベンチャー経営者を支援すれば、比較的容易にベンチャーを輩出できる。つまり大企業がイントラプレナー(社内起業家)を輩出することができたら、日本は大企業発のイノベーションを起すことができる。

 新浪氏のように威勢のいい若者に手を挙げさせ、座学で経営教育を施した上で、OJTで子会社トップを経験させ、メンターを配置してコーチングする。そんな社内ベンチャーを育てる環境を、大企業なら作ることができるはずである。アントレプレナーに寄せる期待は大きい。しかし日本で孫さんのような起業家をたくさん輩出することは期待できない。しかしイントラプレナーならば、日本の経営環境に向いているはずだ。日本にイノベーションを起し、日本を変革するために育成すべき人材は、大企業の社内起業家なのである。