三菱商事が新浪氏をサポートする事情

 三菱商事が新浪氏を送りだし、その成長をじっと待ち続けたのには三菱側の事情もある。図は、三菱商事の財務諸表(比例縮尺図)である。

 

 総合商社は、かつて世界に情報ネットワークを持ち、日本の産業振興を主導する役割を担った。しかし日本経済が成熟し始めると、何度となく「商社不要論」が叫ばれるようになる。かつて資源の調達や製品輸出を商社に頼ってきた日本企業も、だんだん自力をつけ始めると「流通中抜きの商社はずし」をするようになる。総合商社はそうした動きに対抗する手段として、2000年代に入って川上の資源権益や川下のBtoC企業への投資を強化する。その過程で、取引仲介によって口銭(売買手数料)を稼ぐ旧来型商社モデルから、自らリスクを取って事業に投資する「投資会社」型ビジネスモデルに転換してきた。したがってバランスシートを見ればわかるように、今や最大の資産は「投資等」となっている。

 また商取引の利益は、PLの中の営業利益で表現される。営業利益は当然だが、税金差引き前の数字である。一方で、投資のリターンは受取配当金や持分法投資利益などで表現される。こちらは税引き後の数字である。どちらが大きいかといえば一目瞭然、投資リターンの方が既に大きくなっている。総合商社が取扱う商品はかつて「ラーメンからミサイルまで」といわれ、今は「コンビニから鉱山まで」といわれる。それほど多様な非関連事業を抱える投資会社にとって、最も重要な経営資源は何かといえば、それは有能な経営者なのである。

 特に三菱商事は、「人材供給会社」というもう一つの顔も持ち始めている。ローソンを始め、日本ケンタッキー・フライド・チキン、北越紀州製紙、メタルワン、三菱自動車工業など、三菱商事出身者が社長を務める企業数は連結対象会社の半分強といわれる。同社には後継者難の出資先から派遣要請が舞い込むことも多く、社長を派遣している総数は300人に及ぶという。商事の新浪氏への並々ならぬバックアップの背景には、「派遣経営者のシンボル・新浪剛史に失敗してもらっては困る」という投資会社としての親会社の事情もあるのである。

アントレプレナーよりイントラプレナーの育成を目指せ

 三菱商事は多様な事業経営で力の発揮できる経営トップを育成するために、経営教育に力を入れている。OJTはもちろんのこと、派遣留学も含めてOFFJT(座学)の経営教育の場をたくさん設けている。新浪氏は、いわば三菱商事が育んだイントラプレナーである。もちろん新浪氏の「社長をやらせてほしい」と申し出る情熱があったからこそだろう。しかしそれを許容し、新浪氏を全面的にサポートし、育成し、待ち続けた商事の貢献も大きいといわなければならない。