すべてのステークホルダーが幸せになるストーリー

 マーケティング・ストーリーを描く上では、まずは消費者のカスタマージャーニーを把握することが必要だと述べてきました。しかし、消費者インサイトに基づいて描かれたストーリーは、あくまで部分最適の解にすぎません。真に売れ続ける仕組みをつくる上では、マーケティング・プロセスの全体最適となる解を見つけていく必要があります。

 具体的には、消費者のみならず、関与するすべてのステークホルダーが幸せになれるストーリーを見つけることです。これがIMC2.0の「オペレーションの統合」のステージです。消費者はステークホルダーのなかでも特に重要な存在ではありますが、消費者だけを見ていても、継続して売れる仕組みはつくれません。社内外の各ステークホルダーのインサイトを洞察していくことがきわめて重要になります。

 たとえば、研究開発とマーケティング部門が、どんなに革新的な新製品を開発しても、それを社内の営業部門が高いモチベーションをもって積極的に販売しなければ、売れません。また販売チャネルである流通が取り扱ってくれなければ消費者にサービスや製品を届けることはできません。社外に目を向けても、広告が以前ほどには効果を発揮しづらい今の情報環境においては、メディアでいかに大々的にその製品を取り上げてもらえるかも、ますます重要になっています。それゆえ、メディアもステークホルダーの一つであり、彼らのインサイトを把握し、いかにPRによる情報露出を図り、ソーシャルメディアでの話題につなげていけるかを考える必要があります。また、その分野におけるオピニオン・リーダーたちとの関係構築も欠かせません。

 このようにプランニングの起点は消費者のみならず、社内外すべてのステークホルダーを洗い出すこと。そして、そのインサイトを発見することから始まります。

 このマルチなインサイトを得るには、データ分析やリサーチを丹念に行い、科学的な視点でインサイトを洞察し、それに基づいてマーケティング施策を連続的に、全体を最適化するように設計・運用していく必要があります。

 マーケターの役割とはリサーチやデータを分析することだけではありません。そこから得られた情報をもとに、消費者をはじめとする各ステークホルダーのインサイトを見つけ、すべてのステークホルダーの「心のスイッチ」を探し、最終的に消費者の購買行動へ結び付けるためのストーリーをつくることです。そして、そのストーリーにそって効果的に実践する戦略と方法論を考えていくことなのです。

 モノと情報があふれ、購買行動に至る経路が複雑になってきたからこそ、より丹念にお客様の意識や行動を調べて、各ステークホルダーのインサイトを探索して実効性のあるマーケティング施策に落としこんでいく必要があるのです。

 私は常々、マーケターとはビジョナリストであるべきだと訴えてきました。その事業や商品が誰に価値をもたらし、それが広がることでどのような世の中になり、どのように人を幸せにしていけるのか、という明確なビジョン。さらに、そのビジョンを実現することで、社内の商品開発、営業、加えて流通企業といったすべてのステークホルダーが幸せになるストーリーを描くこと。その二つが、ビジョナリストであるマーケターに必要なことです。

「売れ続ける仕組み」とは、その商品やサービスに関わる人すべてが幸せになるビジョンとも、言い換えることができます。

 私はシュルツ教授との対談を通じて、彼が長らく提唱し続けてきたIMCという統合的アプローチこそがマーケターがこのビジョンを実現するために最適な思想であると改めて感じました。同時に、悩める日本企業再生のために不可欠な解であるとも確信しました。日本においてIMCが定着するために何が必要なのかを今後も模索していこうと考えています。

 

【連載バックナンバー】
第1回:IMC3.0の時代に必要なのはデータマネジメント
第2回:データから顧客インサイトは見えない
第3回:IMC3.0の実践方法はすでに明らか。やるかやらないかが競争優位につながる。
第4回:経営者にますます必要とれるのはマーケティング・センス