イノベーションを起こせるのはデータでもテクノロジーでもない

 しかし、消費者が自分でも明確には意識できていない、潜在意識として心の深層に存在する〝欲求・願望〞である消費者インサイトを正確に把握するのは容易なことではありません。アンケートやインタビューといった従来型のマーケティング・リサーチだけでは、リサーチャーが意図する範疇を超えた回答を得ることは難しく、購買行動を起こすリアルな消費者心理を分析するデータとして十分とは言えないからです。

藤田 康人氏(ふじた・やすと)
インテグレート代表取締役CEO。 1964年東京都生まれ。慶應義塾大学を卒業後、味の素株式会社に入社。1992年、ザイロフィンファーイースト社(現ダニスコジャパン)を、フィンランド人の社長と2人で設立。1997年にキシリトールを日本に初めて導入し、同市場を確立した。2007年5月、IMCプランニングを実践する日本初のプランニングブティックとしてインテグレートを設立。近著に『THE REAL MARKETING-売れ続ける仕組みの本質』(宣伝会議)。

 最近では、エスノグラフィーなどの行動観察アプローチも注目されていますが、私自身、世界中にあるさまざまな消費者インサイト把握に有効であるというメソッドを探索し、体験してみているのですが、未だこれだという手法にはめぐり合えていません。

 そんななか、ビックデータの時代を迎え、アドテクノロジーの進化、ソーシャルメディアの普及などによって、消費者の日常的な行動をデータ化し、会話を観察・傾聴することが可能となったため、消費者インサイトを正確に把握することができるようになってきたと言われています。

 しかし、自分の深層心理にあるインサイトは消費者自身もよくわかっていないものです。自分でも明確に意識していない〝欲求・願望〞までソーシャルメディア上のつぶやきやコメントとして、ダイレクトに口に出すことなどできるはずがありません。需要創造のキーとなる消費者インサイトそのものは、生データとしてはどこにも存在していないのです。ただし、間違いなく生データの中にそれを読み解くヒントは眠っています。

 そこで今、注目されているのが高い分析、計算能力と現場におけるデータ収集など、ビジネススキルも併せ持った「データサイエンティスト」の存在です。しかし彼らが膨大なデータから確率の高い答を導きだすために不可欠なのが精度の高い仮説=ストーリーです。

 対談の中でシュルツ教授もマーケティング全体を把握するジェネラルな視点の重要性を上げ、その3つの資質のひとつとして、次のように語っています。

「“data-literated”であること。つまり、データが何を意味するのかを理解する能力が必要だということです。これは特に訓練が難しいですが、欠かせない点です」

 と述べているように、この仮説を描くことこそがマーケターが担う重要な役割なのです。

 どんなにデータの解析技術が進んでもテクノロジーだけでこの仮説を立てることは不可能です。結局、膨大なデータを生かすためにも、最後は人間が持つ創造性というアナログな能力が重要なことには変わりがありません。需要創造というイノベーションを起こせるのはデータでもテクノロジーでもなく、マーケターの持つクリエイティビティという英知であることを我々は決して忘れてはいけません。