垣根を乗り越えて本物のチームをつくる

――メーカーは技術的な限界を知っているが故に「できない」という判断をすることもあると思います。それでもやってみてほしいと納得してもらうために、何が必要でしたか。

 そこがチームワークだと思います。単にやりたいと言っているだけでは解決しません。なぜ、JAXAがやりたいと言っているのか。なぜ、やらなければならないのか。それを丁寧に説明し、理解してもらう。そうすると「あなたの言うとおりにはできないけれど、こういう方法であればできるかもしれない」という対案を出してくれます。ストレートな対決ばかりではなく、ほんわりと包み込むように調整する。そうやってチームワークをつくっていくことが大切だと思います。

――宇宙開発の世界にはアメリカもロシアもいて、国籍も文化も言葉も違う人間が集まって仕事をしています。JAXAにも工学や医学などさまざまな分野の方がいらっしゃると思いますが、異分野の人たちが一つのチームとして働くとき、どのようなことに気を遣っていらっしゃいますか。

 私が現在担当しているCALET(高エネルギーの宇宙線を観測するガンマ線観測装置)は、「きぼう」の船外実験プラットホームの実験テーマの募集時に、早稲田大学の鳥居祥二教授のチームから提案され、審査を経て、採用されたものです。JAXAではやったことがないミッションなので、装置の細かい仕様設定は鳥居教授のチームと一緒に固めていきました。

 ただ、鳥居教授のチームは、気球実験での経験は豊富ですが、宇宙の装置を開発するのは初めてです。そのため、宇宙用機器の詳細な仕様を設定していくのに、どのような要求項目を、どのように規定してもらえば良いのかをうまく伝えられませんでした。

 JAXAでは、開発のフェーズごとに審査会を行って、フェーズアップしていくのが通例です。審査会できちんと仕様をクリアにしておかないと、実際の設計に反映されません。しかし研究者の立場では、より高機能・高性能を求めるが故に、後になって設計を変更したいという場合もあり、意思疎通がうまくいっていなかったのが原因だったと言えます。

 ミッションの性質上、CALETの打ち上げ時期には制約があります。開発期間が短いプロジェクトなので、何度も作業をやり直す時間的な余裕がありません。そこでプロジェクト・マネジャーの提案で、毎週金曜日にチームミーティングをすることにしました。フェース・トゥ・フェースで議論を重ねたおかげで風通しもよくなり、私たちとしては宇宙線物理学の知識を深め、鳥居教授のチームも宇宙機の開発について経験を積まれたと思います。いまでは、CALETチームはとてもいい雰囲気になっています。

――相手と顔を合わせることが効果的であったと。

 そう思います。異分野、異文化を理解するためには、メールや電話のコミュ二ケーションだけでは難しいと思います。急ぎで調整することがなくても、直接会ってコミュニケーションを取っていれば、話しにくいことも話せるようになってくるものです。電子技術が発達し、テレビ会議もできるようになりましたが、テレビ会議では参加者間に温度差が生まれてしまうこともあります。

 メールでは、どんなに丁寧に書いても真意は伝え切れません。メーカーとの技術調整でも、頻繁に会っていくことで相手の力量を把握したり、言いたいことが言えないときの様子がわかったりするようになりました。それを感じ取ったときに、こちらから質問したり、助け舟をだしたりするといろいろな背景や状況がわかってくるものです。それもチーム力を上げる方法だと思います。

 あるべきゴールが決まっていない、一から考えて積み上げてつくっていく開発業務では、予想もしなかった部分が数多く出てくるものです。それらをうまく解決してプロジェクトを進めるには、JAXAにせよ、メーカーにせよ、研究者にせよ、垣根なく一つのチームになることが大事だと、CALETの開発を通して改めて実感しました。

次回更新は、11月14日(金)を予定。