クックが示した透明性によって、アップルはダイバーシティについて約束を実行するのだと告げている。これによって同社は、シリコンバレーでの尽きることない人材獲得競争でますます優位に立つ。そしてクックも、CEOとしてより有能になると思われる。シルビア・アン・ヒューレットとカレン・サンバーグがHBRに寄せた報告によれば、職場ではLGBTであることを隠し続けるよりも、公表したほうが大きなメリットになるという。特に顕著な点として、カムアウトした従業員は自身の属性をあれこれ「管理」する必要から解放され、仕事で成果を上げることに集中できる(英語記事)。(なお、アメリカではいまだに29の州において、同性愛者であることを理由に従業員を解雇することが合法である〈英語記事〉。)

 実際、クックがそうであったように、職場で周知されているが世間には公表していないという場合でも、自身の属性を抑圧することのストレスは大きな犠牲を伴う。デロイト大学リーダーシップ・センター・フォー・インクルージョンの研究によれば、同性愛者である従業員の83%は、職場で自身を「覆っている」という(英語記事)。つまり、同性愛者であることが実質的に周知されていてもなお、「周囲との違いを最小限にしなければ」と感じているのだ。たとえばパートナーを仕事の場所やイベントに連れてこないようにする、家族の写真をオフィスに飾るのを控える、などである。クックの告白はアップルの幹部、そして企業社会に対して、「トップリーダーとして成功するために、自分を覆い隠す必要はもうない」ということを力強く証明するものだ。

「私はゲイであることを、神が与えてくれた最大の恵みだと考えている」とクックは述べる。他者への共感が高まり、自分の道をみずから切り開くことを学べたからであるという。イノベーションを称え、革新的なアイデアを強みとするブランドを築きながらiPhoneなどを生み出してきた企業にとって、共感も独自の道を進むことも重要な資産である。

 クックは言う。「私たちは自社の価値観を守るために、戦い続ける。そしてこの素晴らしい会社のCEOにだれがなったとしても――人種、性別、性的指向に関係なく――同じように戦うだろう」。アップルにとって、そしてその成功に続こうとする多くの企業にとって、この声明は重大な意味を持つ。クックは単に平等を唱えるだけではなく、それを守るために立ち上がり、頼りにされる存在になることを決意したのだ。


HBR.ORG原文:Why Tim Cook's Coming Out Matters for Apple, and Business October 30, 2014

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ドリー・クラーク(Dorie Clark)
マーケティング戦略のコンサルタント、講演家。クライアントにはグーグル、イェール大学、マイクロソフト、世界銀行などが名を連ねる。デューク大学フュークア・スクール・オブ・ビジネスの非常勤教授も務める。著書にReinventing Youがある。