問題(2)先延ばしの弊害

 2012年にIRS(米国歳入庁)が受け取った納税延期の申請は、1000万件を超えた。この数字は毎年増え続けている。また、納税用ソフト会社ターボタックスによれば、申告期限の2週間前まで申告を行わない人の数も増えているという。

 こうした傾向はオンライン申告のせいでもあるだろう。申告をするのも、延期を申請するのも簡単かつ短時間でできるようになったいま、始めるのが遅くてもよくなった。オンライン申告がプレッシャーをなくしてくれたので、先延ばし癖のある人々がさらに申告を遅らせるようになったのだ。

「大丈夫。自分は締め切り間際になってプレッシャーがあるほうが、いい仕事をするタイプだから」。これが、先延ばし体質の人の言い分だ。しかし、それはありえない。そんな人は1人としていないのだ。

 心理学的には、「プレッシャーがあるほうが、いい仕事ができる」という言葉はまったく意味をなさない。ここでの「プレッシャー」とはつまり、「いまやっていることを終わらせるために、ぎりぎりの時間しかない」ということだ。時間が足りないことが、どうしていい仕事につながるというのか。これは、「睡眠時間を短くしたほうがしっかり休める」と言っているようなものだ。

 それよりも、先延ばし体質の人は「プレッシャーの"おかげで"仕事に取り組める」と言うほうがはるかに正確である。つまり、プレッシャーがなければ動かないのだ。期限を延ばせばプレッシャーがなくなるのだから、非常にまずいことになる(ただし当然ながら、延期してほしいと最初に言い出すのも先延ばし体質の人なのだが)。

 問題(3):人は元来、遂行時間をうまく予測できない

 心理学者はこれを「計画の錯誤(planning fallacy)」と呼ぶ。ほとんどの行為について遂行時間を少なく見積もってしまうという、だれもが持つ一般的な傾向だ。

 これはいくつかのバイアスを引き起こす。第1に、私たちは計画を立てる時に、過去の自分の経験をふまえるのを怠ってしまう。大学教授ならだれでも知っていることだが、大学4年生は過去4年間にわたって論文を書き続けてきたはずなのに、10ページの論文を書くために必要な時間をうまく見積もることができない。

 第2に、私たちは計画通りに事が運ばない可能性を、具体的に考えようとしない。将来の展望は「最善のシナリオ」になりがちなのだ。その結果、すべてがスムーズに運んだ場合に必要となる時間だけを見積もる。しかしスムーズに進むことなどまずないのだ。

 第3に、私たちは取り組みの工程や構成要素をもれなく考えることをせず、各段階でどれくらい時間がかかるかを考慮しない。たとえば部屋のペンキ塗りなら、ローラーを使って壁にペンキを塗ることだけを思い描き、たいして時間はかからないと考えてしまう。まず家具を移動したりカバーで覆ったりしなくてはならないこと、据え付け品や窓枠をテープでマスキングし、縁の部分は手で処理しなくてはならないこと、等々は考えに入れない。

 苦境に陥ったそもそもの原因であるずさんな計画を見直すことなく、単に期限を延ばすだけでは、また同じ結果になる可能性が高いのだ。