グーグル会長のエリック・シュミットは、「会議中は、自分と異なる意見の持ち主を積極的に探す」と述べている。アブラハム・リンカーンの有名な「ライバルからなるチーム」は、リンカーン自身が知性を認め、自分と見解が食い違う時に自信を持って反論してくる人々で組閣された。世界最大級のヘッジファンドの1つである、ランズダウン・パートナーズの旗艦ファンドの共同ファンドマネージャーであるスチュアート・ローデンは、自身の重要な役割の1つとして、「部下に異議を唱える人物になること」だと筆者に語っている。その理由は、彼らの意見に誤りがある可能性を示し、疑問を投げかけることで彼らの意思決定がどう影響を受けるのかを見極めるためだそうだ。

 あなたの組織の「チーフ・チャレンジャー」、つまり率先して異議を唱える役目を負ってくれるのは誰だろう? あなたが検討中の選択肢に疑問を投げかける人はいるだろうか。自分の見解と相容れず熟慮していなかった選択肢、想像すらしていなかった選択肢に目を向けさせてくれるのは誰だろうか。さらにその人物は、あなた自身の考えにも異議を唱えてくれるだろうか。

 私たちは経済学の教科書に出てくるような、理性的で最良の判断を下す、感情のないロボットのような意思決定者ではない。さまざまな思考の誤りや罠に陥ってしまう生き物だ。

 たとえば、私たちは予想よりもよい情報(例:強盗に狙われる確率が20%だと思っていたら、実際には10%だった)を与えられると、その情報を歓迎し信じ込む。反対に予想よりも悪い情報(例:がんになる確率が10%だと思っていたら、実際には30%だった)を与えられると、その情報を無視する傾向にある(英語論文)。

 また、私たちの判断は感情や気分によって大きな影響を受ける。ストレスが視野狭窄を引き起こすことはすでにご存知だろう。さらに、裁判官と医者を対象にした2つの研究によれば、両者ともストレスを感じると、潜在的に抱いている人種的偏見が表面化する傾向が強かったという(英語論文 )。24時間睡眠をとらなかったり、1日4~5時間の睡眠で1週間過ごしたりした場合も、私たちの思考力は酒に酔った時と同じくらい低下する(本誌2006年12月号「睡眠不足は企業リスクである」を参照)。

 金銭的な判断に関する実験では、被験者は血糖値が下がっていた時に悪い判断を下したが、腹を立て興奮していた時も同様であった。また、男子学生に「岩」のような中立的な画像と、ビクトリア・シークレットの下着に身を包んだモデルの刺激的な画像のいずれかを見せた後、金銭に関する意思決定をさせた。すると、刺激的な画像を見た後には悪い判断が顕著だった(英語論文)。

 次に、過去に執着する傾向が意思決定に与える影響を考えてみよう。皆さんはノキアがいかに偉大な企業だったか覚えているはずだ。ノキアは1990年代以降、携帯電話業界を牛耳ってきた。絶頂期には時価総額が3030億ドルに達し、2007年には世界中で販売された携帯電話の10台のうち4台がノキア製であった。

 しかし、アップルが業界を一変させるiPhoneを2007年に発表した時、ノキアの怠慢が明らかになった。つまり、カラーのタッチスクリーン、地図、オンラインショッピングなど数多くの機能を備えたスマートフォンを約7年前にみずから開発していたにもかかわらず、商品化を進めなかったのだ。その代わりにノキアは、すでに成功を収めていた、良質かつ頑丈で信頼性の高い携帯電話にこだわり続けるほうがよいと判断した。

 当時の開発チームにいた元従業員はこう振り返っている。(スマートフォンの可能性はまだ不透明だったため)「経営陣はいつも通りの判断を踏襲した。つまり開発中止だ」(英語記事)。ちなみにiPhoneが発売された時、ノキアのエンジニアは、1.5メートルの高さからコンクリートの上に端末を落とす「落下テスト」をiPhoneで行い、不合格だったのをあざ笑っていたという(英語記事)。

 ノキアの経営陣は、過去の成功が未来へのたしかな指針となり続けると信じていた。しかし、すでにご存じのように、実際はそうではなかった。iPhoneの発表から6年後、ノキアは時価総額の約90%を失った。また、マイクロソフトが2013年9月にノキアの携帯電話事業を買収した時の金額は、前年のグーグルによるモトローラの買収金額の半値にすぎず、ノキアの衰退ぶりを如実に表していた。

 こうした思考の誤りや欠点を警告してくれるのが、チーフ・チャレンジャーの役目である。あなたは、その人の話に耳を傾けなければならないのだ。


HBR.ORG原文:Every Leader Needs a Challenger in Chief September 11, 2013

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ノリーナ・ハーツ(Noreena Hertz)
エラスムス大学ロッテルダム経営大学院教授。グローバリゼーションを担当。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの名誉教授。近著に『情報を捨てるセンス 選ぶ技術』(講談社)がある。