豪雨のなか進むべきか、それとも留まるべきか

――宇宙飛行士の訓練の過酷さは、さまざまなところで耳にします。極限の状況下では、リーダーはどのようにして決まるものなのでしょうか。

 私たちのときは、岩砂漠を歩く訓練と、カヌーに乗って旅をする訓練でした。いずれにせよ苦しく、苛酷な環境であることは変わりません。この訓練はリーダーシップのトレーニングなので、リーダーは日替わりで決めます。私がリーダーを務めた際に特に大変だったのは、カヌー訓練のときで、かなり横なぐりの雨と風で、とても厳しい環境だったと思います。それをうまくクリアしたことで評価が高くなり、私に対する見方が変わったと思いますが、この訓練で改めて心に刻まれたのが、自衛隊でも学んだフォロワーシップの重要性です。

 ある程度の安全を確保できることはわかっていましたが、それでも進むべきかとどまるべきか迷うほどの微妙な天候です。最終的に「Go」なのか「Not Go」なのかを決めるために、メンバーで話し合いを行いました。ミーティングは非常にネガティブな方向に流れていて、「ここで無理をする必要はない」「キャンプを張って天候の回復を待とう」という意見が優勢になっていました。そのとき、1人のフォロワーが口火を切ったんですね。

「そもそも、俺たちがここに来ている理由はなんだ。ここでおしゃべりをしてみんなで仲良くするのが目的であれば、こんなところに来る必要はない。過酷な状況にチャレンジして、絆を強めることが目的なんじゃないのか」

 この言葉がきっかけで、空気がガラッと変わりました。「そのとおりだな」「やっぱり行こうか」。そんな前向きな言葉がいくつか出てきたので、私は「Go」という決断を下すことができました。

 当初から私の考えは「Go」だったのですが、チームのやる気を引き出すためには、私の考えに納得してついてきてもらわなければなりません。そのほうが、個々の力を発揮できるからです。もちろん、戦場などで即断しなければ命が失われるような場面では、リーダーが命令するしかありません。しかし、時間に多少の余裕がある状況で、しかも個々の能力が高い場合には、納得して行動してもらったほうがパフォーマンスは上がると思います。

――訓練では全員がリーダーシップを発揮するとおっしゃいましたが、それぞれの個性がリーダーシップに出てくるものでしょうか。

 もちろん個性は出ると思いますが、すべてのメンバーが心がけているのは、雰囲気をよくして何でも話ができる環境をつくることです。いざというときに意見できるようにすることと、状況によってはリーダーが命令しやすくすることがその理由です。フォロワーがリーダーの意見に頑なに反対することや、リーダーが高圧的に命令することは、チームの雰囲気を悪くしかないでしょう。しかし、チームに信頼関係が構築されていれば、そうした状況でも結束が乱れることはありません。どのような状況でも機能するチームをつくり上げることは、リーダーとして必要な条件だと思います。

 リーダーシップには、国民性の違いもある程度は出ると思います。それでも、共通する部分のほうが多いのではないでしょうか。国籍が違っても人は人ですから、リーダーから声を掛けてもらえば嬉しいし、褒められるともっと嬉しいものです。衣食住へのこだわりも万国共通です。そういうところまで気を遣ってくれるリーダーこそが、優れたリーダーと言えると思います。

 その意味で、和、思いやり、気配りを前面に押し出した若田光一さんのリーダーシップは、特筆に値するものだと思います。若田さんに限らず、アメリカ人やロシア人の優れたリーダーもメンバーに対して細かく気を配り、信頼して任せてくれます。そういうリーダーのもとで働くと、やる気が出るものです。