そのビジネスモデルはいくつかの方法を創造的に組み合わせたものだった。看板広告やパンフレット、ソーシャルメディアを使って患者に直接訴えかけるキャンペーン。医療技術者が多数の患者を午後に検査する診断施設の設置。選定した病院向けにペースメーカーを安価で提供するための、サプライチェーンの再構築。人体に移植可能な医療機器向けとしては世界初の、ローン制度。メドトロニックには、これらを実行できるだけの技術力、インド市場に関する知識、地元の規制当局と協働する能力、取り組みのすべてをまかなえる資金力があった。これらを併せ持つベンチャー企業、そして既存企業は、世界中探しても存在しない。

 このプログラムは目覚ましい成果を上げ、インドの何万人もの患者を救い、インド市場におけるメドトロニックの成長を加速させた。さまざまな要素を統合したこのビジネスモデルを模倣するのは、競合他社には困難であるが、メドトロニックはさらに前進しようとしている。CEOのオマール・イシュラックによれば、同社は10億ドルを超える研究開発費の一部を、医療機器のさらなる低価格化に向けて投じ、インドや他の新興国市場での医療アクセスを拡大していく方針である。

 ただし、大企業のみがイノベーションに取り組むべきだというわけではない。数年前、あるベンチャー企業のチームがスタンフォード大学dスクールでDesign for Extreme Affordability(貧困国のために「究極の低価格」を追求する設計)の講座を受け、早産新生児の体温を保つ画期的な技術を開発した。それは西洋の病院に普及している2万ドルの保育器の、1%以下のコストで製造できる保温用具だった。この素晴らしいアイデアが世界中に大きな影響を与える可能性を秘めているのは明らかであった。

 さて、開発元のエンブレイスはこの〈エンブレイス・インファント・ウォーマー〉を、必要とするすべての病院や患者の手にどうやって届けることができたのだろうか。製品を世界に展開する助けを借りるために、同社は2010年にゼネラル・エレクトリック(GE)と提携したのだ。

 大企業によるこうしたイノベーションの成功事例は胸が躍るものだが、まだ数としては少ないのが現状だ。大企業はイノベーションが潰れてしまう場所だ、といまだに多くの人が思い込んでいる。

 2013年にオーストラリアで開催されたカンファレンスで、私は大人数の参加者たちにアンケートをとった。「世界を変えるために、あなたなら何をしますか?」(英語動画)。5つの選択肢(起業する、政治家になる、非営利団体で働く、大企業で働く、教師になる)のうち最も多かった回答は「起業する」で、次は「教師になる」だった。そして最下位、たった5%の得票率だったのが、「大企業で働く」だった。

 これは悲劇である。

 アルキメデスの有名な言葉がある。「我に十分な長さのテコと支点を与えよ。されば、地球をも動かさん」。大企業は支点を持っている。そしてイノベーションはテコとなりうる。つまり世界を変える力があるのだ。それを支援することは価値がある――そう私は思うから、大企業のイノベーションというテーマにあえて取り組んでいる。


HBR.ORG原文:Should Big Companies Give Up on Innovation? March 11, 2014

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スコット・アンソニー(Scott Anthony)
イノサイトのマネージング・パートナー。同社はクレイトン・クリステンセンとマーク・ジョンソンの共同創設によるコンサルティング会社。企業のイノベーションと成長事業を支援している。主な著書に『イノベーションの最終解』(クリステンセンらとの共著)、『イノベーションの解 実践編』(ジョンソンらとの共著)などがある。