他社の買収戦略で最も興味深かった試みは、2003年のイーベイによるイーチネット(易趣)の買収だ。当時のイーチネットは、オークション市場で80%近いシェアを占めていた。ところが2005年には、他でもないジャック・マー率いるタオバオに中国市場で後れを取ってしまう。アリババのBtoCビジネスを守るためにマーはタオバオを開設し、イーチネットでは有料にしている出品手数料を無料にする決断を下した。また、ライブチャット機能を実装して、出品者と購入者が直接やり取りをしながら信頼関係を築けるようにした。かたや、イーベイはライブチャット機能の導入を拒否していた。なぜなら、ユーザーが直接取引をして出品手数料を節約することを恐れていたからだ。さらに、タオバオのサーバーは中国国内にあったため、イーチネットより高速だった。結局、イーベイは2006年暮れに中国市場から撤退している。

 一方グーグルは、初期のヤフーと似たような自前での立ち上げ戦略を試みた。2000年、アメリカ国内のサーバーを使ってグーグル・ドットコムの翻訳版を開設。ところが、表示速度が遅いうえに頻繁に検閲、遮断されたため、やがてバイドゥ(百度)にシェアを奪われる。その後中国版のプログラムを開発し、中国国内のサーバーを使い始めてからも、グーグルは市場シェアの約3分の1しか獲得できず、残りの3分の2はバイドゥに押さえられていた。その後、グーグルはサービス拠点を香港に移したが中国側にアクセスを遮断され、同社の中国進出の挑戦は2010年に終わりを告げた。ただし、中国撤退という決断のどの程度が政治情勢によるもので、どの程度が経営上の敗北によるものだったのかは定かでない。

 AOLは提携と投資を通じて中国進出を目指したが、どちらも実を結んでいない。アマゾンは2004年に中国企業の卓越網を買収したものの、地元の競合サイトであるタオバオや京東商城などに追いつけずにいる。アマゾンは、クラウドサービスやアプリストアも開設したが、中国のeコマース市場で占めるシェアはわずか1%どまりだ。フェイスブックやツイッターなどのソーシャル・サイトは、中国当局による通信の遮断や地元の有力サイトとの熾烈な競争により、中国市場に食い込めずにいる。

 つまりヤフーは、中国市場でそれなりの価値を創造した唯一の米インターネット企業なのだ(ただし、2013年9月にヤフー中国は閉鎖)。

 もちろん、ヤフーも最初は失敗した。しかし他社と違うところは、過去の取り組みで培った知識を生かし、挑戦し続けたことだ。初期の我々は、ヤフーに最も適した事業は何かを分析することに力を注いでいた。しかし後になって思うと、最も重要なのは人選だった。ヤフーの企業文化に合った信頼の置けるリーダーやチームを探し出し、現地の部隊が自由に経営判断を下せるような関係を構築することだったのだ。

 提携から9年の間に、さまざまな変化があった。アリババは2007年11月に香港株式市場に上場して15億ドルを調達した。グーグルによる2004年の新規株式公開(IPO)以来、インターネット関連株としては史上最高の売り出し価格だった。2011年と2012年にはアリペイの所有権をめぐる枠組み合意に変更が生じた。2012年5月には、アリババはヤフーが保有していた自社株の半分弱を70億ドルで買い戻した。その後、同社は非上場となった。

 アメリカの親会社が厳しい運営管理をしていたら、こうした変化は起こらなかっただろう。たとえばアリババは、ヤフー中国のサービスを市場で前面に押し出そうとしなかった。アリババにとってヤフーと提携する主なメリットは、営業損失を出しているアリペイとタオバオに資金供給するための現金を確保することと、ヤフーのブランド力でアリババのグローバル展開を強化することだった。こうした取引の構造により、マーとそのチームは長期的な価値を追求する意思決定ができたのだ。ヤフーはこのやり方を許容できると考えた。しかし我々だけで判断していたら、こうした発想は出なかっただろう。 今やアリババはグーグルやフェイスブック、ツイッターと肩を並べており、同じ中国企業のテンセントと並び称される存在である。

 振り返ってみると、今回の棚ぼた利益を手にすることができたのは、我々が存在さえ知らなかった優秀な現地人材のおかげだ。我々は中国市場で最高のパートナーを見つけ、早い段階から過ちに気づくことができた。そして、打ちのめされても立ち上がり、挑戦し続けた。うまくいくやり方を見つけるまで、試行錯誤を繰り返した。さらに、権限を手放して市場の動きに順応する方法も学んだ。その甲斐あって、想像以上に実りある提携を築き上げたのだ。


HBR.ORG原文:An Insider’s Account of the Yahoo-Alibaba Deal August 6, 2014

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スー・デッカー(Sue Decker)
ヤフーの元社長で、ハーバード・ビジネススクールの元アントレプレナー・イン・レジデンス。バークシャー・ハザウェイ、インテル、コストコホールセールの取締役を務める。