ところが現地採用者たちは、本社から来た幹部は市場を理解していない部外者であると見なし、サービス開始当初から緊張関係が生じた。さらに大きな問題もあった。現地から上がってきたアイデアを本社が認めるまでに時間がかかりすぎたのだ。その結果、より中国市場に適したサービスを短期間で開発する地元の競合サイトに敗北を喫したのである。

 3721を買収した際、我々はやり方を変える覚悟ができていた。積極的で経験豊富な中国人リーダーの周に製品管理の大半を委ね、意思決定についても現地チームに幅広い裁量を与えた。経営陣には、ヤフー中国を含む共同事業の運営権を与えた。本社に報告が必要なのは、法務と財務、人事のみとした。

 しかし、米中の文化とビジネス習慣の違いから、3721では人間関係の問題が生じて行き詰まってしまった。この問題は、サービス運営の足かせにもなった。

 そこでアリババとの提携では、我々は運営権を何もかも手放す必要があると考えた。これは、現地の運営権の50%以上を掌握するという元々の希望を諦めることを意味した。そればかりか、雇用にまつわる問題をパートナーに全部任せ、それまで接点のなかった人々にヤフーのプログラムを使わせることを意味していた。実に恐ろしいことではあった。

 だが、我々が中国で成功した最大のカギは、アリババの経営陣との相性のよさであった。多くの中国企業では階層的でトップダウン型の経営システムを採用しているが、マーの経営手法は他とは違って謙虚でオープンだった。彼はアメリカで教育を受けてはいないものの、最初の会議で本人が言った通り、アメリカ式のマネジメントとリーダーシップについて熱心に学んでいた。

 我々が会った他の中国人経営者とは異なり、マーは自分が強くない分野で自分より経験やスキルを持つ幹部を積極的に雇おうとした。たとえばCFOのサイには、アメリカのビジネス慣行を熟知しているという強みがある。したがって、戦略立案とビジョンの設定においてマーと補完し合えるのだ。

 ハーバード・ビジネススクールのジュリー・M・ウルフが2010年に発表したケーススタディ によると、マーはジャック・ウェルチの経営手法を勉強し、GEが取り組んだ意思決定の分権化に感化されたという。マーはウェルチのように、幹部に各自の事業分野で最高の成果を上げるために必要なことは何でも自由にやってほしいと考えていた。

 この経営陣こそ、我々が求めていた変化を実現してくれそうだった。マーにならばヤフー中国の経営を託せると、我々は心づもりを固めた。

他の米IT企業は中国でどんな経験をしたか

 ヤフーが中国進出に乗り出した頃、他の多くの米IT企業も中国への参入を計画、実行していた。その際、どの企業も似たような困難に直面した。馴染みのない法律や慣習、そしてさまざまな事業上の難題があった。たとえば、中国以外のソーシャルメディア・サイトは、現地のサイトよりも遮断されることが格段に多い。中国政府によるインターネット検閲を監視する非営利団体グレート・ファイヤーによると、当局の検閲により2600以上のウェブサイトがブロックされているという。規制対象の中には、フェイスブックやツイッター、ユーチューブなど中国以外のユーザー生成型コンテンツサイトも含まれる。規制の理由が政治的懸念であれ、地元のライバル企業を助けるためであれ、打撃は大きい。

 中国進出を目論む企業の多くがヤフーと同じ間違いを犯し、早期に中国市場に落胆し、撤退していった。