構造構成主義の中には、「価値の原理」というものがある。これは「すべての価値評価は関心に応じて(相関して)なされる」というものだ。社会で成功することに関心があれば、出世や昇進、ステップアップにつながる残業に価値を見出す一方で、家族と豊かな時間を過ごすことに関心があれば、早く帰宅することに価値を見出すだろう。そのように、すべての価値判断の基点には「関心」がある。

 したがって、このケースにおいてもまず上司の「関心」を同定する必要がある。失敗回避、責任回避バイアスの強い上司であれば、上司の関心は「失敗しないこと」「責任をとらされないこと」にある。そのような上司に、「こんなこと実現できたらすごくないですか」と達成できる成果をアピールしてもまず響かないだろう。その上司はそもそも成功に関心がないのだから、成功のための方法を解かれても、そこにはまったく価値を見出せないのである。ではどうすればよいか。上司の「失敗したくない」「責任とらされたくない」に響くように言えば良いのだ。

 たとえば、冒頭に出した500人の避難所に300枚の布団が届いたケースで考えてみよう。上司は前例にそむいて、失敗したくない、責任をとらされたくないと思っている。このときに「方法の原理」を共有していれば、次のように言って説得できる可能性がある。

 「今の状況では全員に同時に配るという公平主義に縛られていたら誰にも配れません。行政の目的は、市民をサポートして生活の質を上げることですから、公平主義に基づく前例は、目的を達成する方法になりません。市民に納得してもらえることが大事なのですから、この際、一人1枚じゃなくても、家族で分け合ってもらったり、お年寄りや子どもを優先するといったように工夫して配ったほうがよいのではないでしょうか。むしろ、明らかに『よい』方法があるのに、それを実行しなければ、そのほうが責任問題になると思います。」

 このように状況と目的に照らして、前例を変えたほうが、責任回避したいという関心にとっても「よい」ということを伝えるのである。そうすれば「確かに、そのほうが問題にならなそうだし、やってみようか」となる可能性は高くなるだろう。