次のテストでは、独創的な新しいアイデアに対する被験者の感情を明示的に測定した。創造性と実用性に関する先ほどの言葉について、1(とても否定的)~7(とても肯定的)のスケールで自分の感情を表してもらった。

 その結果、「余分な報酬」というささやかな不確実性を植え付けられたグループは、口頭では創造性のほうを重んじると言いながらも、実際には実用性を示す言葉を好んでいることが示されたのだ(IATテストでは、表示された言葉に対する反応の速さで認識の強さを測定する)。そして後日行われた追加実験では、不確実な条件を与えられた被験者たちは、画期的な新型ランニングシューズの試作品を見せられた。すると、その実現可能性について対照群よりも著しく低い評価を下した。

 不確実という条件の下では、創造性に対してこれほどネガティブな偏見が生じるのだ。多くの優れたイノベーションが初期段階で拒絶される理由は、ここにあるのかもしれない。この傾向は今日では特に顕著だ。自社の属する業界は安定している、と言う経営幹部はほとんどいないだろう。企業は不確実性に対処するためにイノベーションを迫られる。しかし同時に、幹部が競争優位につながる発見を拒絶してしまう理由もまた、不確実性なのだ。企業を生きながらえさせるはずのアイデアが、あまりにもすぐに潰されてしまう。

 この問題に対する1つの解決策は、アイデアが行き交う構造を変えることだ。従来型のヒエラルキーによってアイデアを見出し承認するのではなく、承認プロセスを組織全体に広げるのだ。

 これは、ロードアイランドを拠点とするIT企業のライト・ソリューションズが10年ほど前から用いているアプローチだ。同社は、社内ウェブサイトで「アイデア・マーケット」を立ち上げている。従業員は誰でもアイデアを「株式」に見立てた、「ミューチュアル・ファン」(Mutual Fun)と呼ばれる市場に上場できる。各従業員には、アイデアへの「投資」資金として1万ドルのバーチャル通貨が与えられている。投資だけではなく、支持するアイデアにボランティアとして協力もする。十分な支持を得たアイデアはプロジェクトとして認められ、支持者たちは全員、プロジェクトの収益の一部を受け取る。

 このプログラムは発足からわずか数年で、同社に巨額の利益をもたらした。ささやかな漸進的改善から異業種の製品開発まで、成果は多岐にわたる。ミューチュアル・ファンは初年度だけでも、新規事業による成長の50%を占めていた。しかし目先の利益以上に重要なのは、新しいアイデアを組織全体で認知し生み出す文化が形成されたことだ。アイデア・マーケットによって、だれもが気づきを得られるようになったのだ。

 このシステムの前提は、「だれもが優れたアイデアをすでに持っており、マーケットは単にその発掘を助けるために機能する」というものだ。つまり、アイデア不足を補うのではなく、気づきを促すための解決法なのだ。


HBR.ORG原文:Innovation Isn't an Idea Problem July 23, 2013

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デイビッド・バーカス(David Burkus)
オーラル・ロバーツ大学の助教授。経営学を担当。リーダーシップ、イノベーション、戦略のアイデアをシェアするLDRLB(リーダーラボ)の創設者。著書にThe Myths of Creativityがある。