慮り(おもんぱかり)体質をいかに打破するか

――そのやり方を日本企業に導入するにはどうすればいいのでしょうか。

 かつて、伝統的な日本企業には、同期のつながりや独身寮など無数のインフォーマルなネットワークが張り巡らされていました。それぞれが複数のネットワークに属し、考え方や価値観を学んでいました。さらに、そのネットワークで行われた情報交換が組織を越えた連携につながり、実際のプロジェクトに生かされていたのです。

 一方で、ビジネス環境は複雑化の一途をたどっています。事業の種類や展開地域が増え、以前に比べてビジネスが難しくなっています。それに対応するために、企業はジョブディスクリプション(職務記述書)を明確にする方向に進んでいきました。権限と責任の範囲を明確に定め、他人の範疇に口を出してはいけない。そうすることが組織を強くすると信じられたのです。それに伴って、かつてのようなインフォーマルなネットワークや、明文化されていない権限といったものが否定されてしまいました。

 本書に書かれていることは、かつて日本企業にあったインフォーマルなネットワークで行われていたこととよく似ています。ですので、「伝統に戻れ」というメッセージと捉えられる方もいるかもしれません。ただ、事はそう簡単ではありません。いくつかのチャレンジが必要になります。自分の範囲を越えて口を出してはいけないという「慮り(おもんぱかり)体質」をどうやって打破するか。単なるチームワークではなく、本当にチームワークが機能する仕組みをどうやって作り出すか。この2点が不可欠です。

――具体的に、どのようなチャレンジをすればいいのでしょうか。

 ある経営者が、こんなことをおっしゃっていました。

「各部門がそれぞれ断片的な情報を上げてくるので、全体像がつかめない」

 さまざまな現場を見るなかで、私も同じことを感じていました。各部門を統括するミドル層はそれぞれの部門での情報や課題を正確につかんでいます。私の目から見ると、見え方こそ違いますが本質はすべて同じ情報や課題です。しかし、それをある方はリアルの立場、ある方はネットの立場、ある方はサービスの立場、ある方はハードの立場から報告するので、トップにはあたかも異なった情報や課題に見えてしまうのです。断片的で脈絡のない情報や課題を集めてトップ自ら統合し、最終的な意思決定を下すのは難しいと言わざるをえません。むしろ意思決定に必要な専門性を持ったミドル層が一堂に会し、そこで活発に議論を戦わせ、最終的にはトップのリーダーシップによって決断するほうが、はるかに迅速な意思決定につながるのです。

 具体的なチャレンジは、トップとミドルの立場によって異なります。

 トップはまず「場」を設けることです。日本企業から慮り体質を消し去ろうとしても、そう簡単にはできません。トップが場を設定し、慮り体質から脱却しミドル層が部門を越えて連携すること、他人に口を出すことが大切だと自ら語りかけ、実際に遂行するところまで導いてあげるのです。さらに言えば、仕組みを明文化することが重要なのではなく、組織にとって必要なやり方であるというコミットメントを広く示すことが大切なのです。

 実際にこの仕組みを導入すると、はじめは本当に口出ししていいのかどうか戸惑うようです。しかしやってみると議論が活性化し、正しい方向に進んでいきます。断片的だった情報が総合的に捉えられるようになり、コミュニケーションが活性化されることで意思決定が速くなるのです。しかも、知っているようで知らず、お互いを疑心暗鬼の目で見ていたミドル層がひとつのことを目指すなかで認め合い、一枚岩になっていきます。トップから見ても、一枚岩になって連携するミドルが逞しく見えるといいます。